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十三話

「えー、刑事ドラマで犯人が被害者に変装して死亡推定時刻をズラす、なんて事がありますよね?でも私、あれ不思議に思うんです。え?何でかって?それは………」


 陽気な陽がステンドグラスから差し込んでくる生死の神、ナトス様の教会の中。

 やることも無くて暇だった俺は主祭壇に立ち、古畑任三郎ごっこをしていた。


「モモ、何やってるんだ?」


 そんな最中、この教会のシスター見習いであるナスターシャが不思議そうな眼差しをこちらに向けてくる。


「な、何でもないぞぅ!」


 今の行為を見られていたと言う恥ずかしさで、俺は少し声が裏返ってしまう。


「………?モモもナトス様にお祈りしてたのか?」

「お祈り………?あー、もうそんな時間なのか?」


 ナスターシャの一日は基本的に決まっている。

 七時に朝ごはんを食べ、八時からシスターとして必須の光魔法の修行。十二時に一度お祈りをして昼ごはん。そこからは自由行動となり、十八時に晩御飯の時間となる。


「今日のお昼当番は誰だっけ?」


 ウチの教会は料理ができる俺とマリアンヌさん、最近住み始めたシロコの三人で当番制で回している。

 しかし、今日は朝から皆出掛けていて教会には俺しかいないはずだ。

 つまり───。


「俺か!?」


 そう気付いて、俺は今の現状を整理する。

 今現在、お昼の用意は全くと言っていいほどしていない。

 と、言うか今思い出したのだが、ナトス様から今日は三人とも用事があって昼は俺とナスターシャだけでと言われたような気がする。

 寝起き過ぎて忘れていたのだろう。


「もしかして………お昼ないの?」


 涙目で訴えるように眺めてくるナスターシャ。

 完全に俺が悪いのだが、いつも元気なシスター見習いの涙目を見ていると罪悪感で押しつぶされそうだ。


「だ、大丈夫だぞナスターシャ!えーと、今からじゃ食材買ったりしてたら昼飯にしては遅くなるし・・・。そうだ!今日は外に食べに行こう!ナスターシャの好きな所でいいぞ!」

「ホント!?」


 泣き止んだナスターシャの目がキラキラと光る。


「お、おうよ!お金とか準備してくるから、その間しっかりお祈りするんだぞ!」

「はーい!」


 元気よく返事をするナスターシャ。

 俺も安心して一息吐き自分の部屋へと向かう。

 出かける準備を五分で終わらせて、教会の礼拝堂へと戻る。

 未だナトス様に祈りを捧げているであろうナスターシャの邪魔にならない様音を立てずにドアを開けた時だった。


「………ナスターシャ?」


 ふと、いつもは主祭壇の前に座って祈りを捧げているはずのナスターシャの姿が見当たらないのに気付いた。

 何処隠れているのだろうか?

 俺は長椅子の間を一列一連見て回る。

 それでもナスターシャの姿はない。

 今度は主祭壇の中を覗き見ようとして、俺はその上に置かれた紙切れを視界に捉える。

 先ほど、古畑任三郎ごっこをしている時にはみなかった紙切れだ。

 紙切れを手に取って開くと、そこにはこう書いてあった。


『シスター・ナスターシャは預かった。彼女の命が惜しくば、一億エクセルを用意し、日が落ちる前にセントラル公園の噴水前に来られたし!くれぐれも他人には話さぬように!』


 明らかに、誘拐犯の身代金要求だった。


「………マジかよ」


 あまりにも信じられない状況に俺はぽつりと言葉を溢す。

 一億エクセル………、日本円に直せば丁度一億円を今から日が傾く前にかき集めて持っていくなんて不可能にも程がある。


「いや、そんなことよりナスターシャだ!」


 そう、幾ら不可能だと言っても、彼女が人質に取られている以上やるしか道はない。

 だが、どうする?衛兵に相談もできないとなると一億を集める方法なんて後は強盗くらいしか………。


「いやいやいや!いくらなんでも犯罪はダメだろ何考えてんだ!」


 万事休すだ。金を集められない、誰にも相談できない、犯人の行方もわからない。


「と、とにかく何とかしねーと!えーと、ウチの教会のお金は確か今五百万くらい?全然足りねぇ!」

「こんにちはーッス」

「ギャァァァァァァァァ!!!」


 どうすればいいのかわからない現状、俺は極度の緊張状態だった。

 そんな状態で突然の来客。俺はあまりの緊張に我も忘れて殴りかかった。

 しかし、次の瞬間、俺の視界に天井が映り、次第に頬がジンジンと痛み始める。


「い、いきなり襲いかかってきて何なんスか!?」


 来客が当然の反応を示す中、俺も頬を抑えて考える。

 何に?今頬に感じる痛みについてだ。何故か初めて感じた痛みではない気がする。


「そう………、あれは拙僧がこの世界に来てすぐの頃………って、だからこんな事やってる暇ねーんだって!今すぐ金かき集めねーと!いや、でもウチそんな金ないからなぁ!………やるか?銀行強盗」

「む!自分の前で犯行声明とはいい度胸ッス!」


 来客からの再びのお説教パンチ。俺は主祭壇の手前まで吹き飛ばされる。

 その勢いで俺が手に持っていた誘拐犯からの手紙が抜け落ちて宙をヒラヒラと舞う。


「何すかこれ?犯行計画書?」


 足元に落ちてきたそれに気付いた来客は当たらずとも遠からずな予想を口にしながらその紙を拾って肩をワナワナ震わせる。


「な、何スかこれーーーーー!!!」


 すぐさま駆け寄ってきた来客が俺を起こして尋ねる。


「シスター見習いさん、誘拐されたんスね?」


 俺は彼女の勢いにただただ頷いた。

 すると彼女は自身の胸を叩きながら高らかに宣言する。


「ノーサス様の神子であるこのソラカゼ・チサトが来たからにはもう安心ッス!貴方に罪を犯させる事なくシスター見習いさんを助けてみせるッス!」

「力の………神子?」


 聞き覚えのある単語に俺は目を丸くする。

 この世界にいる3人の神様がとある目的で一人ずつ異世界から転生させた人間。それが神子だ。

 神子にはその神様に由来する力を恩恵として授けらる。

 例えば、俺の知り合いである知の神子、ウサミ・マホならば無尽蔵とも言える魔力量。生死の神子である俺ならば不死とも言える生命力。

 噂では、まだ知らぬ力の神子はパンチで何でも打ち砕く巨漢と聞いていたが、当てにはならない物だ。


「そうッス!」


 誇らしげにしている彼女の姿を少しだけ冷静になった俺はようやく視認する。

 青いジャージに白い短パン、左の膝小僧と右頬に絆創膏とスポーティな出いでたちの褐色茶髪の短髪少女。


「えーと、俺はフジサキ・モモ。一応、この教会の神子をしてます」

「な!神子なのに銀行強盗しようとしたんスか!?」


 三度目のパンチ。この少女、少し暴力的ではなかろうか。


「そうと決まればまずはウチの教会に来るッス!監視されてる可能性もあるからお金を借りに行く体で来るッスよ」


 そう言うと彼女は俺を起き上がらせる事もなく、一目散に教会の外へと駆け出していく。

 俺はしばらく状況が飲み込めずに呆然と尻餅を着いたまま外を眺める。

 しかし、そうしている内にだんだん頭で現状を整理して今やることを確認できた。

 俺は立ち上がって急いでリビングの方に走る。必要なものは大きな鞄と通帳だ。

 俺はリビングにあるその二つを手に取って、彼女の教会、最後の神様、ノーサスのいる場所へと走り出した。

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