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十二話

 ……………声が聞こえる。


「イタイ、イタイよ………」


 これは………誰だ?いつもはオドオドしていても、言うことはバッサリ言ってくる魔法使いの少女?

 否。

 怒りっぽくて、研究熱心な虎の亜人の女?

 否。

 これは小さな男の子の声だ。


「ムム?このタイミングで大分意識を取り戻して来よったか」


 これは誰の声だ?

 妙に聞き覚えがあるような気がするし聞いたら聞いたで嫌な寒気と言うか嫌悪感を感じてしまう。

 ……………あ、これ俺の声か。


「コロシテ、コロシテ………」


 ようやく違和感の正体が分かったかと思えば再び聞き覚えの無い女の人の声が聞こえてくる。身体は動かない。


「えーい!暴れるんじゃないわー!もう暫く儂に身体預けとれい!」


 何を言っているのか今一要領得ないがとりあえず話の内容的に俺の身体は何者かに乗っ取られているのだろう。


「うおぉぉぉぉぉ………」


 さっきから何なんだ、そこら中から聞こえてくるこの呻き声の数々は。


「あー………。あんまり見んで良いぞ。てか見るな」


 見るな?見るなって何を………?


「あ、おい。視界が霞んで来よったぞ?ちょ、ちょっと待てい!」


 大分辺りが見えてきた。見えて………、見え、て………。


「…………………あ?」


 声が出た。無意識ではあったが、これは確かに俺が出した声だ。

 だが、そんな事が気にならない程俺は見えてきた目の前の光景に絶句した。

 ドクドクと脈打つ真っ赤な壁。その壁から何人もの生気を感じない亜人達が顔を覗かせて助けを求めて来ている。


「………何だ、これ?」

「術の研究の成れの果てじゃ」


 俺の疑問にただただ冷酷に、冷淡に、俺の声が答える。

 俺は絶句する。こんなの明らかに異常だ。いや、人体実験をしている時点で異常ではあったが、これほどの人数とは思わなかった。


「………っ」

「あ、もう喋る時間はないぞ。今にもお主の右手にある水晶玉が砕けて爆発しそうじゃからの」


 言われるまま右手を見てみれば、確かにヒビ割れた水晶玉が握られている。この水晶玉は確か俺が出店で買った物だ。

 ……………ん?


「爆発………?」


 気付いた時には遅かった。

 既に水晶玉は霧散して、初めに俺の目を光が焼き切り、その次に熱が指先、腕、肩と広がって行く。そして、一呼吸もしない内に俺の意識は再び闇へと沈んで行った。

 そして……………………………、目を覚ます。

 先程の見たあれが夢が現実かは定かではないが、違和感なんて全くと言っていい程の気持ちいい朝だ。

 身体を起こしてみると、そこは教会の俺がいつも寝泊まりしている部屋。身体を見ればどうやら服は来ているようだ。


「帰ってきた?」


 ベッドから降りて俺は部屋を出る。

 俺が住まわせて貰っている教会は、礼拝堂と神様や神父、シスターが住む家屋と扉で繋がっていて、そっちの家屋は三階建てとなっている。とは言え、ここに住んでいるのはナトス様と俺とナスターシャの三人だけ。皆二階を使っているから三階なんてあってないような存在だ。


「あら?お目覚めですか?」


 下へと続く階段を降りてみれば、忙しそうに洗濯物がたくさん入った桶持って歩き回る六十代くらいのシスター、マリアンヌさんが足を止めて俺に話しかけて来る。

 俺もマリアンヌさんに会釈して洗濯物を彼女の腕から持ち上げる。


「目覚めたばかりなのですから無理をなさらないで下さい」

「大丈夫ですよ。あ、こっち置いときますね」

「はい。ありがとうございます。今、お茶を出しますね」


 洗濯物の桶を部屋の隅に置き、俺は食卓の椅子へと座る。

 しばらくして白いティーポットと白いティーカップを二つ乗せたお盆を持ってキッチンから現れたマリアンヌさんが紅茶を入れて俺の前に出してくれる。

 俺はその紅茶を半分程度飲んでから前の椅子に座るマリアンヌさんに本題を切り出した。


「あの………俺、いったい何時こっちに戻ってきたんですか?デミゴスのあの遺跡がどうなったのかも気になりますし。それにマホとシロコのことも………」


 俺の質問にマリアンヌさんは自身のポケットに手を入れて、四つに折られた紙を取り出して俺に渡してくる。


「ナトス様は私用によりここ数日留守にしております。ですので、その手紙を言付かりました」


 どうぞ、と読むように促されて俺は手紙を開く。


『この手紙を読んでるって事はきっとオメーはオレ様の忠告を無視した挙句三日くらい寝込んで今はマリアンヌと紅茶をしばき回してる事だろう。早馬でオメーらがキメラを倒したって聞いた時はマジで驚いたぜ。んまぁ、そんな事はどうでも良くて、とにかくアイツを放っとけば間違いなく国が滅ぶくらいの被害が出ただろう。でもオメーらはそれを止めた。言いたいことは多々あるが、今はおめでとうと言ってやろう。おめでとう!!!さて、オレ様も調べるまで忘れていたんだが、あそこで作られていたキメラはマジで国を滅ぼせる物だった。オメーらが帰ってくる前にオレ様とティジェフでそれをこの国に王に進言したわけ。そしたらあのヤンチャ坊主が褒美を取らせたいから目が覚めたら二人で来るようにってよ。できるだけ踏んだくって来い!PS!!!偶然かもだが、国を救ったってことでオレ様がティジェフに僅差で最高神代理となった。代理と言っても最高神は最高神!やったぜ!これからは最高神代理の神子としてより忙しくなるぞぅ!以上!』


 長い手紙を読み終わり、俺は一息吐く。

 手紙では最高神代理になったということだが、本当、気を失っていた俺は何もできていないからあまり実感がない。

 貢献度を誰が判断しているかは知らないが、以外にガバガバなのだろう。


「流石最高神代理となられたナトス様。寝込む日数までピッタリです」

「あ、俺三日寝込んでたんですね」


 残りの紅茶を飲み干して、俺はもう一度手紙に目を向ける。


「この国の王様、見たことないんですけどどんな人ですか?」


 できれば権力を振りかざして無理難題を押し付けるような王様じゃなかったらいいな、何て思いながら俺は質問する。


「セントラル・ヒュージⅢ世。自身の武功のみで王となり、傾き掛けていたこの国を一代で世界で最も大きな国にした偉大な王です」

「それはまた………。凄い人ですね」

「ええ。私もナトス様の付き添いで王に謁見したことがありましたが、話のできるとても素晴らしい方でした」


 それなら少しは安心だ。


「じゃあ、準備して行ってきますね」

「はい。お気をつけて」


 俺は席から立ち上がって階段へと向かう。直ぐに無くなるから安物のシャツとズボンを大量購入していたが、服はこのままでいいのだろうか?

 王様との謁見なのだ。それ相応のドレスコードと言うものもあるだろう。


「………まぁ、いっか」


 とりあえず、部屋の隅に置かれていた旅の荷物の整理を済ませて、俺は教会の外へと出る。


「あ、モモさん。おはようございます。マリアンヌさんが伝魔で目が覚めたって教えてくれて。お元気そうで何よりです」


 外に出てみれば、そこにはマホが立っていたのだ。笑顔でいつものローブを着て、いつもの杖を持ちながら、しかし初めて会った時と違ってオロオロはしていない。

 マリアンヌさんは何時でも行動が早いなと思いながら、俺もマホに返事を返す。


「マホ!良かった、無事だった!」

「はい。おかげさまで怪我もなく帰ることができました」


 どんな戦いが行われていたか、俺にはそこら辺が気を失っていて分からないが、とにかく彼女が無事だったことに俺は安心する。

 後は虎の亜人であるシロコの安否だけだ。


「えっと、シロコって今何処に?無事なのかな?」


 俺がそう聞くと、マホの顔が少しだけ暗くなる。


「そ、その………」

「………と、とりあえず城に出向しよう。話は歩きながら聞くからさ」


 答えにくそうにするマホに無理強いすることもできない。どうなったのかは気になるが、今は城に向かうことを提案する。

 すると、はい………、と暗い顔のままマホが城に続く道を向いて歩いて行く。

 しばらくは俺もマホも何も喋らずに後もう少しで城に辿り着くとなったところで不意にマホが立ち止まった。


「マホ?」


 不思議に思った俺が声をかけてみれば、マホがその手に持った杖を力強く握る。


「………し、シロコさんは宮廷魔道士団の詰め所に戻りました」

「………そうか」


 苦虫を嚙み潰したように告げるマホから目を逸らして、俺は雲一つない空を見る。

 ある程度予想はできていたことだ。

 元いた世界でも俺は昔から神経が全部抜け落ちたのか、と言われるくらい鈍感と定評だった。それは、失って初めて大事なのだと気付いた時には後の祭りだったことがある俺が一番よくわかっている。

 そんな俺でも、流石に一緒に命を賭けて戦って、時に喧嘩をしていれば、その正体に薄々気付いてくる。だからこそ、俺はこの好機に口角を上げで目の前の勝負の場を見据える。

 きっと、あのいい加減な神様はここまで流れを読んであんな言葉を残したのだろう。


「んじゃあ、国相手に報酬をふんだくりにいこうぜ」


 呆気に取られてぽかんとしているマホの背中を押しながら俺達は門兵に話を通して城の中へと入っていくのだった。

 案内役の兵士に連れられるまま、俺とマホはある大きな扉の前へとやって来る。


『入れ』


 しばらく待っていると中から催促の声が聞こえてきてゆっくりと扉が開く。完全に扉が開いてから、一歩一歩歩き出し、部屋の中を観察する。

 ゴミ一つない綺麗な部屋で、赤いカーペットが玉座にまで続いている。玉座には筋肉質な初老の男が座っており、カーペットの脇には老いも若いも様々だが、何人かの男達が立っていて、さらに部屋の壁際には何十と壁を背に兵士が待機している。


「その方ら、そこで止まりを下げよ」


 カーペットの脇に立っていた如何にもクズ顔の男が声を上げる。

俺達はそれに従って立ち止まるが、俺はこの世界での頭の下げ方など分からない。ふと、マホの方を見てみれば片膝を付いて頭を下げている。


「図が高い!そこの男、早く頭を下げぬか!」


 反応が遅いことに気が立ったのだろう。俺たちを静止した男が声を張り上げて俺もようやく片膝を付いて頭を下げる。

 すると、玉座の方から声が聞こえた。


「良い。頭を上げよ。リーガよ、彼らは異世界から呼ばれた神子である。多少礼儀がなっておらずとも、そう怒鳴ることは無かろう」


 案の定、声の主は王様だった。彼の声には威圧感はあるものの、全く怖がるような声ではない。


「しかし陛下。礼儀が無ければ規律は守られませぬ。ひいては法すらも危ぶまれることでしょう」

「あー、よいよい。貴様の忠言など耳にタコができるほど聞いたわい。全く、生真面目にもほどがある」


 それ以上、王様にリーガと呼ばれた男は王様に進言すること無く黙りこんだ。それを見て王様も俺たちに目を向ける。

 さて、と王様が前置きをして一番遠い俺たちにも聞こえるくらい息を吸い始める。


「セントラル・ヒュージⅢ世、すなわち余である!!!」

「???」

「???」


 何を言われるのかと、身構えていたこちらからすれば肩透かしにもほどがあるまさかの言葉。どうやらマホもよくわかっていない様で目を点にしている。


「うむ。開口一番はやはりこの言葉でなければな!」


 豪快に笑う王様を尻目に、周りの男や兵士達は諦めた様に遠くを見つめている。

 俺達があっけに取られているのに気付いたのか、少し落ち着いた王様がさらに口を開く。


「………まぁ、何。余は力のみで王となった故、威厳の出し方がよく分からんのでな。始めにこうして存在感を出しておる」

「は、はぁ………」


 その有り余る筋肉だけで十分威厳と存在感はあります余、と言ってしまいたいが何とか飲み込んで話を待つ。


「それ故に、余は、軍は率いることができても法を定めたり国の財源を上手く動かしたりはできぬ。才がないからな!フハハハハハ!だから、余は功を為した者には敬意を払おう。勿論貴様ら二人にもな。フハハハハハハ!!!」


 最早出す言葉もない。

 この場の空気は完全に王様に支配されていて、ただただ彼の笑い声だけが部屋に響く。


「ご機嫌な所失礼します、陛下。この後も視察や会食が控えています。できれば本題に入っていただきたい」


 どうすればいいのか、と誰もが悩んでいるとリーガと呼ばれた男の立つ方と逆の方から一人の男が待ったをかける。俺はその男を知っていた。


「むぅ。貴様が言うなら仕方ないのぅ、イロンハット」

「恐れ入ります」


 宮廷魔導士団の団長、ノーン・イロンハット卿だった。

 マホがイロンハット卿をマジマジと眺める。彼女の目に浮かぶ感情が何なのかは俺には分からないが、とりあえず俺は彼女に声をかける。


「あんまりじろじろ見るなよ。無礼だってまたドヤされるぞ」

「………はい」


 そう言いながらマホは渋々と視線を下げる。それと同時に王様が一回咳払いをしてその場の全員が王様に視線を向ける。


「あー、貴様達を呼んだのは他でもない。生死の神ナトスと知の神ティジェフから委細は聞いた。まずはこの国に住む者として感謝の意をしめそう。大儀であった。そして、ここに報酬を取らせると約束しよう。土地でも財宝でも好きなものを言うといい」


 俺たちの前にいる男達が俺たちの返事を待つ様に一斉にこちらを見る。

 俺はゆっくりと顔を上げて目の前にいる国を営む男達に進言する。


「まず、断っておきます陛下。俺は確かにあの場にいましたが、倒したと言うのは少し異なります」

「………ほう」


 怪訝そうにこちらを見る王様。俺は少し物怖じしながらさらに続ける。


「俺は途中で意識を失いました。失う直前の記憶も定かではありません」


 本当に何故俺は気を失ったのか、あやふやだ。何か、恐ろしいものを見たような、体験したような気もするが、思い出そうとしたら頭が痛くなる。


「………それで?」

「あのキメラを倒し、素材として使われた亜人達の魂を解放したのは横にいるウサミ・マホと、虎の亜人であるシロコである事を陛下には心に止めておいて頂きたい」


 その上で、と俺は一息ついて告げる。


「もし、それでも俺をキメラ討伐の功の末席に未だに加えて頂けるのなら、俺の願いはただ一つにございます」

「申してみよ」

「宮廷魔導士団の奴隷として繋がれている虎の亜人であるシロコの解放をお願いしたく存じます」


 俺の要求に周囲がざわめき始める。不敬だ、途中で倒れた者が厚かましい、その様な声がそこら中から聞こえてくる。そんな事は俺が一番よくわかっている。わかった上で俺は要求している。

 亜人の奴隷全員は無理でも、今ならシロコ一人ならば助けられる可能性はあるのだ。なら、俺は幾ら罵られようといくらでも頭を下げよう。


「ふむ………。イロンハットよ。そのシロコなる亜人は貴様達の所有物だ。貴様の意見を聞かせるがよい」


 しばらくのざわめきの後、王様が少し唸ってイロンハット卿に声をかけると、彼は少しだけ前に出て口を開く。


「はい。確かに、彼らの供として私は一匹の亜人を付けました。名前は知りませんでしたが。彼女の報告によれば、確かに彼は戦闘中に何者かに身体を乗っ取られていたとの記述があります。不明な点はいくつかありますが、これといった矛盾が今のところ無いので真実であると判断しております。しかし彼に一定の功績があるのもまた確かです。ですが、そのシロコは亜人の中でもまた稀有な存在です。彼の功績だけと言うのは少し、厳しい物があると言えるでしょう」

「はっ、そもそも亜人などの報告を参考にすること自体、愚かだと私は思いますがな」


 並んでいる男の中の誰かが語気を強めて聞こえるように呟く。それに呼応するようにいっそうざわめきが大きくなる。

 やはり、ダメか、と俺が諦めかけると隣から声が上がった。


「な、なら、私とシロコさんの功績も上乗せしまひゅ!!!」


 今まで黙っていたマホだった。

 俺は彼女を見て目を丸くする。ここに来ただけでも少しだけ驚きだったが、来いと言われた以上彼女は来る。しかし、自分から大声で主張することは無いと思っていた。


「わ、私とシロコさんはち、直接キメラをた、倒しました。わ、私達二人の功績があればその、足りると思いましゅ!」


 噛みに噛みまくっている彼女の主張に王様が再びイロンハット卿に視線を送る。


「………確かに三人の功績を合わせるのなら、釣り合うでしょう。この国の理念は功労者にはそれに見合った報酬を、です。ならば、国を救った者を奴隷の身分から解放することに私からは異論はありますまい。全ては陛下の御心のままに」


 マホとシロコのおかげで何とかイロンハット卿にシロコの解放を実質認めてもらうことができた。

 遺跡に向かう前に成果は全て宮廷魔導士団に譲るなどと言ってしまったから少しだけ不安もあったが俺は安堵で息をつく。

 しかし、すぐに姿勢を直して唸っている王様に目を向ける。

 一秒ほど経って、王様がうむ、と立ち上がる。


「そうか………。ならば!余の心は決まった。望み通り、その虎の亜人とやらを自由の身としよう。これは余の決めたこと。故に異論は認めぬ。皆、心に止める様に」


 彼の笑い声と共に、バラバラだったこの部屋の人間たちが一斉に姿勢を正すと、頭を垂れる。

 それに習って俺たちも頭を下げるのだった。

 そして、そのまま城を出た俺たちは徒歩数分の宮廷魔導士団の詰め所に向かって歩く。


「初めからこのつもりだったんですか?」


 ふと、マホが嬉しそうに話しかけてくる。このつもり、とはナトス様が最高神代理になったことや今回の報酬についてだろう。


「まさか!全部偶然よ。最高神代理の事も、シロコのことも。でもまぁ、終わり良ければ総て良しなんて言葉もあるし。今回の一件は全部解決だろ?」

「そう、ですね!」


 憑き物が取れたように、今までで一番すっきりした顔をしているマホ。俺もつられて笑顔になる。


「ただ、気になることがあってさ、アイツ結局自分から正体明かさねーの」


 最初から教えてくれていれば良かったのに、と悪態をつきながら俺は雲一つない空を見る。


「シロコさん、モモさんの事あの部屋での喧嘩までそこまで信用はしてなかったんですよ?だから、自分からは伝えようとしなかったんです。私もちょっとだけシロコさんに加担しましたし」

「マジか。ちょっとショック。………にしては、今更だけど結構ヒントくれてたよなぁ」


 苦笑いを浮かべながら、何かを思い出したかのようにマホは俺を見る。


「あはは………。あ、そう言えば、あのキメラを倒した後のことなんですけど、モモさんの身体を治して直ぐに亜人解放戦線の人たちが駆けつけてきたんです」

「あ?大丈夫だったのか?危害を加えられたりは………」

「それが、危ないどころか、シロコさんの舎弟なら自分たちの同胞も同じだってボロボロの私たちを看病してセントラルシティまで送り届けてくれたんです」

「そ、そうなのか?案外、気のいい奴らなのかな………?」

「モフテリアの弁償代も肩代わりしてくれたみたいです」

「めっちゃいい奴やんけ!亜人解放戦線サイコー!」


 旅での他愛ない記憶を思い出し、俺が眠っていた間の事について他愛ない会話を繰り返しながら歩いて数分。ようやく俺達は目的の場所へと辿り着く。

 宮廷魔導士団の詰め所の前。木々が規則的に並び、屋台もそこまで出ておらず、人の賑わいもそこまでない大通り。そこに差し掛かる朝の日差しに向かって俺達は歩く。

 その日差しの中には、光に照らされながら、あの二日間を共に戦い抜いた白髪に少し黒髪が混じる亜人の女が立っていた。


「よ、よぉ………」


 シロコが気恥ずかしそうに挨拶をすれば、マホがみるみる涙を両目に溜めて彼女の胸に飛び込んでいく。


「うわぁぁぁぁぁぁん!!!無事でよがっだでずぅぅぅぅ!!!」

「心配かけたな。って、鼻水付いてる………」


 マホの鼻水ともあって、いつものように怒るに怒れないシロコを見ながら俺も声を掛ける。

 

「自由になって良かったな!」

「あぁ。ありがとよ、二人とも」


 恥ずかしそうにしながらシロコが口にした言葉に俺とマホは目を丸くする。初めてシロコが礼を言ったような気がする。


「………やっぱ、こんなのオレ………コホン、わ、わたしの柄じゃあない、よ、ね」

「「私!?よね!?」」


 又もや驚き。ナトス様に続いておかわりオレっ娘の彼女が今、女口調で喋っているのだ。

 この状況に俺達が何も言えずにいるとシロコが再び口を開く。


「驚いた?でもほら!そろそろ身を固めなきゃなーって感じだったから男口調もあれだったし?元々親からもこの男口調の矯正はされてたし?心機一転でいいかなーって」

「………ぶっ!似っ合わねぇ」

「あぁ?めっちゃ似合ってるだろうがぶっとばすぞ」

「ごめんなさい」


 やっぱりシロコはシロコだった。

 シロコの喋る俺とは裏腹に、マホは結婚という単語に思いを馳せる。


「結婚ですかぁ。私は独り身の方が楽だなって思っちゃいます」

「あぁ。そういう考えもあるんだな。家は親父方が結構特殊で跡取りは絶対作っとかなきゃいけないんだけどよ、逆におふくろの方は嫁に行くまで男に裸を見られちゃダメな呪いが一族にかかってんだよ。んで、違えたら死んじまうんだと」

「どっちにしろえらい特殊じゃねぇか」


 俺が何の気なしにツッコんでみれば、シロコが何故か満面の笑みでこちらを見つめて俺の肩を握る。


「と、いう事で、露天風呂で私の裸を見たフジサキ・モモくん?私が死なないためにも、ちゃんと責任取ってね?」

「あ?」


 次の瞬間周囲の蔑んだ視線が俺にひしひしと突き刺さる。

 しかし、有無も言わせぬとはこのことだろう。いきなり胸倉を掴まれたと思えばシロコの顔が急接近して唇に柔らかい何かが押し当てられる。

 これには、隣にいたマホも、初めから詰め所の見張りで立っていた衛兵も、勿論俺も状況が分からず混乱する。

 力も身長もシロコが勝つこの状況では、抵抗することもままならない。

 最後に首筋に痛みが走って、赤いシミを口に付けたシロコの顔が離れていく。


「はい。イツガミ流最新版結婚式終わり。それじゃあこれからも、私、シロコ・イツガミをよろしくね、ダーリン」


 ………後に、この日のセントラルシティに三人の驚愕する大声が響き渡り、街のまだ寝ている住民が全員起こされたと語り継がれるようになったとか、なっていないとか。


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