魔物討伐(13)
「久しぶりだな、エンライト。」
「ご無沙汰しております、殿下。」
トゥワはルーカスに恭しく頭を下げつつ、内心警戒していた。ルーカスがタイミングよく現れたこと、やけに詳しく事情を知っていたことから考えて、自分を監視していたのだろう。直接会いに来たことも気にかかる。
「カヴァーンのダンジョンマスターが死んでいた。」
「え?」
「その驚きよう、君が殺したわけではないのか。」
トゥワは苦笑いした。
「流石にダンジョンマスターを殺せるほどの実力者ではありません。誰の仕業か分かっていないのですね。」
「周囲のダンジョンに怪しい動きはなかったようだ。8層に住まうという神の御業と考えた方がまだ自然だ。」
トゥワは考え込んだ。カヴァーンの主、シルトは土神テッラに仕える半神の身でありながら、邪教徒と手を組んだ挙句、ヒトに敗北した。土神から制裁を受けても不自然ではない。
「では、現在のカヴァーンの主は誰です?」
「不在だと思われる。」
トゥワはドラゴネットに良い土産話ができたと喜んだ。ルーカスが黙って紅茶を飲んでいるので、いたたまれなくなったトゥワが口を開いた。
「本題は何でしょうか、殿下?」
「何のことだ?」
「殿下御自らいらして、私をお助けくださるからには、よほど重要なお話があるのでしょう?殿下は命の恩人です。私にできる範囲であれば何なりとお申し付けください。どのようなご用件ですか?」
ルーカスは上品に微笑んだ。
「そうだな。俺には時間がない。君になら話をしてもよいだろう。」
ルーカスは服のボタンに手を掛けた。ゆっくりとボタンを外していく。
「この話をする前に誓ってほしい。この後話すことは決して誰にも他言しないと。」
「聖神の御名に懸けて誓います。絶対に誰にも話しません。」
ルーカスは上半身をはだけさせた。その胸元には、赤黒く、禍々しい紋章が描かれていた。五芒星とルーン文字、少し前にトゥワの手の甲に描かれていたものと似ているが、はるかに複雑で禍々しい。
「呪いですか?」
「そうだ。致死性の呪いで、術者は既に死亡している。あまりに複雑で、俺でも解呪できなかった。あと数ヶ月経ったら発動し、その瞬間俺は死ぬ。」
ルーカスは自分の胸元を見ながら言った。口調は冷静そのもので、死への恐怖など微塵も感じられなかった。
「私に何ができるのでしょう?」
「実は解呪の手段が一つだけあるんだ。高位の龍の鱗、それも剥いでから一週間以内のものがあれば、解呪薬がつくれるらしい。術者本人が言っていたし、その言葉が真実であることは確かめた。高位の龍には6層の火竜や7層の地竜が該当するのだが、その鱗を狩ろうと思ったら、大軍を派遣しなければならない。恐らく、それが術者の狙いなのだろう。」




