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黒翼の羽ばたき  作者: 馬之群
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魔物討伐(12)

 リェナはトゥワに駆け寄り、呪いを無効化しようとした。少しは苦痛が和らいだようだが、呪いは解けていないようだ。


「ありがとうございます。離れて…くださ…。」

「そんな状態でどう戦うのですか?お休みください。後は私たちで突破します。」


 トゥワは脂汗を掻きながら、歯を食いしばって苦痛に耐えていた。冒険者たちはどんどん制圧され、この場を突破することは難しそうだ。


「エアブレード!」


 トゥワの一声で、頑丈な身体の巨人が深手を負ってよろめいた。ヒトビトの視線がトゥワに集中した。


「大人しくしないと、こいつらを斬るぞ。」


 甲冑に身を包んだ騎士が、冒険者に剣を突き付けている。トゥワは動きを止めた。エルフは呪文を唱え始める。


「闇よ。常夜の国にて魔を貪る王よ。」


 リェナはトゥワを背負って逃げようとしたが、トゥワはそれを止めた。


「十分間足止めします。皆さんを連れて逃げられますか?」


 リェナは頷いた。エルフの詠唱は続いている。


「あれは致死の呪いです。あのエルフだけは殺してください。」

「承知しました。」


「闇より出でて闇より昏く染めよ。」


 エルフが詠唱を終える前に、トゥワは叫んだ。


「ダウンバースト!」


 騎士団のヒトビトは上から叩きつけるような暴風によって、地面に這いつくばり、身動きが取れなくなった。リェナは自力で脱出できない冒険者を助けて、刑場から離脱する。


「常夜へ誘え、黒死卿。」

「あああああああぁぁぁ!」


 エルフが言うと、トゥワの絶叫が木霊した。トゥワは息も絶え絶えになって地面に倒れ伏している。トゥワの風魔法は解けてしまった。


「即死魔法のはずだが、あの三眼に軽減されたか。まあいい。死ね!」


 エルフは魔法を放ったが、それは見えない壁に阻まれた。


「誰だ!」


 トゥワは倒れたまま、何もない空間を見上げていた。すると、一瞬にして何もない空間から白い大きな翼が出現した。見覚えのある亜麻色の髪が風になびいている。周りのヒトもどよめいている。


「ルーカス殿下…。」

「これは何の真似だ?」


 ルーカスの声は静かだったが、凄まじい威圧感にヒトビトは震えた。エルフはすっかり取り乱して叫ぶ。


「そんなはずが…。皇子殿下がこんなところにいらっしゃるものか!」

「それが俺に対する礼儀か?」


 ヒトビトは我先に跪いた。魔法を掛けられたかのように。ルーカスは振り向いて透き通るような緑の目でトゥワを見下ろした。トゥワは胸の激痛に耐えながら身体を起こし、手首を失った両手を合わせながら跪いた。


「失礼しました、殿下。お見苦しい、真似を…。」


 トゥワが息も絶え絶えに言うと、ルーカスはその手を掴んだ。ルーカスとトゥワの周りが光に包まれたかと思うと、トゥワの顔色がみるみる良くなった。しばらくすると、斬られたはずの手が切り口から徐々に再生していった。やがてすっかり両手が元に戻った。


「これで呪いは解けた。手も治しておいたぞ。」

「ありがとうございます。私などのために…畏れ多いことです。」


 ルーカスは改めて騎士団に向き直った。高度な回復魔法と解呪魔法の重ね掛けを難なくしたことで、彼が本物のルーカスだと全員が確信していた。


「殿下、その者は脱走を試みた死刑囚なのです。お気を付けください。」

「おおよその事情は知っている。オーガの群れから襲撃を受けているという報告を受けておきながら無視し、トゥワが討伐したと知って、自分の無能さを隠すために口封じしようとしたと。違うか?」


 エルフは何も言えずに震えている。トゥワはルーカスの言葉に安堵した。


「投降しろ。」


 騎士は次々に武装を解除し、投降の意思を示した。エルフがカッと目を見開いた。


「トゥウィッグアロー!」

「エアシールド。」


 エルフからルーカスに向けて小枝が矢のように降り注いだが、トゥワが風の盾で全て防いだ。


「お怪我は御座いませんか。」

「無事だ。君は下がっていろ。」


 トゥワは言われた通り下がった。ルーカスはエルフに手をかざす。


「レイアロー。」


 一瞬光が見えたかと思うと、エルフがどさりと倒れた。体中に穴が開き、地面に血溜まりが広がっている。


「魔力封じの手枷を持て。」


 騎士が瀕死のエルフに手枷を嵌めた。ルーカスはその状態でエルフを治した。


「連行せよ。俺は彼と話がある。彼の仲間の保護も急げ。」


 ルーカスはトゥワを見ながら言った。トゥワはルーカスに付いて行った。騎士団本部の客間まで行くと、ルーカスは革張りのソファに腰掛け、向かいに座るようトゥワに促した。トゥワはそれに従った。

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