魔物討伐(11)
処刑人が毒の器を持った途端、その器が割れた。ヒトビトの視線は、見物客に紛れて指弾で器を破壊した三眼の女性に寄せられた。リェナだ。リェナはそのまま、トゥワに駆け寄ろうとしたが、警備の兵士らが応戦したため、武器を交えることとなった。ヒトビトは蜘蛛の子を散らしたようにいなくなる。
「武器を捨てろ!さもないとこの男の命は…。」
トゥワを人質に取ろうとした兵士が、別のヒトに刺されて倒れた。そのヒトはトゥワの顔に被せられた袋と開口器を手際よく外す。その周囲には何人ものヒトが二人を守るように立って武器を構えている。
「手枷がなかなか外れないな…。」
「ジャックさん、どうして来たのですか?皆さんまで犯罪者になりますよ。」
「恩人が死刑になろうってのに、何もしないような腰抜けはいねえよ。」
騎士団と冒険者では対人戦の経験も技能も異なる。リェナが助けているとはいえ、冒険者たちの旗色の悪さを見て、トゥワは決心した。
「手首ごと斬り落としていただけませんか?」
「え、そんなこと…。」
言っている傍から誰かが斬られた。ジャックの顔に焦りが滲む。
「お願いします!」
「分かった。一撃で落とせなかったらすまん。」
ジャックは騎士が持っていた大剣を拝借すると、大きく振りかぶった。勢いよく振り下ろすと、トゥワの両手は手枷ごと地面に落ちた。だらだらと流れる大量の血をものともせず、トゥワは声を張り上げた。
「ウィンド!」
トゥワは無差別に周囲のヒトを宙に浮かせた。手首から血が流れ続けているので、切り口を縛りつつ、心臓より上に上げる。
「ライトニング!」
「アクアブレット!」
「バインド!」
騎士団は宙に浮いた状態で、トゥワに向かって一斉に魔法を放った。雷、水の弾丸、ロープなどおよそ数十の魔法がトゥワに襲い掛かり、リェナの魔眼とトゥワのエアシールドで止められなかった魔法はトゥワを直撃した。威力はかなり弱まっていたが、トゥワに膝を付かせるには十分すぎる威力だった。
トゥワは浮いていたヒトを下ろしてしまう。あまり高く上げていなかったため、怪我をしたヒトはいないようだったが、連携を取って囲まれた。
「気絶くらいさせないと駄目か…。精神系遮断魔法具を着けていなかったら一言で済むのに。」
トゥワはカヴァーンでゴーレムと戦った時のことを思い出した。ヒトの姿をしたゴーレムを破壊した時のことを。下手したら深刻な傷を負わせてしまうかもしれない。
「まあ、回復魔法持ちか回復薬くらいありますよね、きっと。」
トゥワは厄介な魔法を放ってきたヒトに狙いを定め、風魔法で攻撃した。何人か負傷して戦線を離脱する。トゥワは周囲に風の盾を展開させたままだ。さらに身体強化も行い、盾で防げなかった魔法を避ける。
冒険者たちとリェナも奮闘している。騎士団の旗色は鈍かった。
「時間稼ぎご苦労。」
例のエルフの声がした。トゥワの手首を持って笑っている。トゥワの手の甲には五芒星とルーン文字が描かれている。
「彼の血肉に災いあれ!」
トゥワは突然心臓を鷲掴みにされたような苦痛を覚え、大声で叫びながらくずおれた。呪いを掛けられたことを理解したが、解呪することはできなかった。トゥワの専門外だったためだ。
「殿下!」




