狂ったお茶会(8)
「エアブレード。」
鋭い空気の塊がローブの人物を襲った。ローブの人物は巨大な石の壁を作ったが、空気の刃はそれを破壊してローブの人物を切り裂いた。微かなカランという音が聞こえた。ローブの人物は動きが鈍くなった。案外傷が深いようだ。
「もう降参して下さい。これ以上の流血は無用です。」
ローブの人物は短刀を出現させて手に取った。トゥワが身構えると、ローブの人物はその刃の向きを変えた。
『止めろ!』
トゥワが止めようと駆け寄ると、天井から大剣の数々が勢いよく降ってきた。トゥワは風を発生させて逸らしたが、そのうちの一つが黒い翼を少し斬り落とした。
「う…。」
トゥワは激しい眩暈を覚え、壁に手を付いた。ローブの人物はトゥワがよろめいた隙に床に落ちた黒い翼の欠片を魔法で引き寄せ、壊れた扉から外に走り去った。トゥワは蒼ざめた。あれほど執拗に攻撃してきたのに、黒翼を手にした瞬間退くとは…。明らかにこのヒトはトゥワ個人を狙っている。翼が黒いことも知っていて接触してきて、その証拠を握って脅迫なり告発なりするつもりなのだろう。
『待て!』
トゥワは急速に遠ざかる人影に向かって手を伸ばした。この距離ならかなりの威力の魔法を使わないと届かないし、この頭痛では殺さないよう調整できそうにない。それでも、今止めなければ自分の命が危ない。
「…仕方ない。貴方が先に私を殺そうとしたからだ。」
トゥワは視界が歪みそうになるのを堪えて人影に狙いを定めた。
「…エアブレット。」
トゥワの脳裏に金褐色の髪に碧い目の子どもが頭から血を流している光景が浮かんできた。トゥワは息を呑んだ。結局、空気の弾丸は人影の遥か遠くに当たり、そのまま人影は姿を消した。
「殿下!」
しばらくしてリェナがやってきた時には、トゥワは意識なく床に転がっていた。リェナが揺り起こすと、トゥワは焦点の定まらない目で虚空を見つめた。
「何があったのですか?」
「…見られてしまいました。まずは翼を斬り落として下さい。」
リェナは懐から取り出した曲がった短刀をトゥワの翼の付け根に振り下ろした。辺りに鮮血が飛び散ったかと思うと、翼はごとりと音を立てて落ちた。
「相手はどこに?」
「逃げられました。姿も碌に見ていません。そう言えば、争った拍子に犯人が何か落としたかもしれません。探してくれますか。」
リェナはトゥワに包帯を巻き、翼出抑制剤を飲ませた後で周囲を探った。トゥワは頭と背中の痛みに呻きながら床に寝転んでいた。
「殿下、これを。」
リェナが差し出したのは、白いボタンだ。開かれた本から杖が生えている紋様が刻まれている。それはトゥワがよく知っている紋様だった。ワンド大学の校章だ。そして、これが落ちていたということは、犯人はワンド大学の学生、或いはその関係者ということになる。トゥワは頭痛に追い打ちを掛けられ、完全に気を失った。
【もし信用できない相手から飲み物を出されたらどうするか】
1.トゥワ・エンライト
断れないようだったら飲む。回復魔法は全く使えないので内心ドキドキしている。
2.ルーカス・エクルー
回復魔法では右に出る者がないので、気にせず飲む。毒が入っていたら淹れたヒトを殺すだけ。
3.ザラ・テーラー
まずは相手に飲ませる。毒の耐性はかなり高いので、相手が飲んだら自分も飲む。
4.リェナ・アーク
飲むふりをしてこっそり捨てる。口元が紙で隠れているので余裕。
5.ウィンドワード
そもそも飲食できない。