魔物討伐(10)
独房の中で、トゥワは物思いに耽っていた。ルーインとは、邪教徒が信奉する邪神の名だ。あのエルフは邪教徒だったということだ。トゥワはカヴァーンでも邪教徒に命を狙われたのだから、死刑にならないことはあり得ない。
魔力を封じられては、トゥワは人間どころか、子ども並みの戦闘力だ。いざとなれば翼を出して少しでも魔法を使おうとは思うが、騎士団本部から逃げ切れるほどの魔法を使えるかどうかは未知数だ。
一週間後、裁判が開かれた。トゥワが支配魔法の使い手であるという理由で口輪と手枷を嵌められた状態で。
「被告は魔法で魔物を支配して周囲の村を襲わせ、自分が倒してみせることで金品を要求するという詐欺行為を働いた。その過程で多くの死傷者が出ているという事実は見過ごし難く、手口も悪辣であると認められるものである。よって、死刑を求刑する。」
トゥワはもはや感心していた。確かにそれっぽい筋書きだ。反論したくても、声を出せない。続々と証拠や証人がでっちあげられていく。このままでは本当に死刑になる。
「被告からの弁明を聞きましょう。皆さん、精神系遮断魔法具を着けていますね?」
まさか発言の機会が与えられるとは思わず、トゥワは顔を上げた。口輪を取ってもらう時、視界の端に映ったエルフが不敵な笑みを浮かべていた。その唇は、『カ・ル・ム』と動いた。余計なことを話せば村人も巻き添えにするという意思表示だろう。
「何か申し開きは?」
トゥワは不安に駆られた。エルフの余裕そうな表情を見るに、裁判官も買収済みだろう。下手に騒いで他のヒトを巻き込まない方がいいのではないかと思い始めた。
「一つ確認です。私が詐欺を働いたということは、村人の皆さんは被害者だという認識で合っていますか?」
「質問しているのはこちらです。」
裁判長は言ったが、トゥワは鼻で笑う。
「申し訳ありませんが、無実だと言ってどうなるとも思えません。それより、邪悪な私から村人を守った英雄の騎士団様なら、当然今回の件で彼らが受けた被害に対する支援を惜しまないはずですよね?」
「当たり前だ。」
「それはいい知らせですね。痛快です。それなら、他に言うことはありませんよ。」
裁判長は怪訝そうに眉をひそめる。再びトゥワに口輪が嵌められ、判決が言い渡される。
「判決を言い渡す。被告を死刑とする。処刑は明朝に行うものとする。」
短命種でも驚くような速さで裁判は終わった。独房の中で処刑を待つトゥワは妙に落ち着いていた。自らの魔法や運を過信しているわけでも、諦めて死を受け入れているわけでもない。トゥワには、きっとリェナが助けてくれるという確固たる信頼があった。
翌朝、空はとても澄み切っていた。ミオネラではまず見られない光景だと、トゥワは改めて日差しの美しさを味わっていた。後ろ手に手枷を嵌められ、口には開口器が取り付けられた。その後、顔に袋が被せられ、トゥワの視界は真っ暗になった。
トゥワには見えていないが、刑場にはちゃぶ台と陶器の器に入った黒い液体が置かれていた。形式ばった言葉と神父の祈りを何となく聞きながら、トゥワは心ここにあらずといった様子だった。トゥワの関心はもっと遠く、処刑場にいるヒトビトに寄せられていた。
「では、飲ませてください。」




