魔物討伐(9)
「また特定危険魔法禁止法違反ですか。懲りないお方だ。」
「前科があるんですか?」
村長から事情を聞いたリェナは頷いた。
「故郷での前科ですが、有名な方なので名前を出したら知っているヒトもいるかもしれません。念のため申し上げますが、いずれも事故のようなもので悪人ではありませんよ。あの方は魔力が強すぎて、ふとした時に支配魔法を掛けてしまうのです。そんな軽微な罪より功績の方がはるかに大きいお方です。」
トゥワの不運は、故郷において魔法を使うヒトがあまりに少なく、魔法を制御する方法を学ぶ機会や魔法の危険性についての知識がなかったことだ。トゥワはまだ幼く、感情と魔力の制御ができなかった上に精神系魔法の危険性を認識しているヒトも少なかったため、とにかく事故が多発した。
「ご迷惑をお掛けしました。私はあの方をお迎えに上がりますので、これで失礼します。」
「我々にできることはありませんか?」
「お気持ちはありがたいのですが、これ以上話が拗れる可能性もありますので、私たちだけで解決します。お世話になりました。」
リェナはロバを一頭もらって大荷物を背負わせ、カルムを後にした。
トゥワは騎士団本部で尋問を受けていた。魔力封じの手枷のせいで、トゥワは完全に無力化している。尋問者はエルフの女性で、両脇に巨人が控えている。
「顔を見せてもらおうか、英雄くん。」
エルフの言葉に従い、トゥワはフードを外した。濃紺の髪と目は特に珍しくもない。
「若いね。いくつ?」
「百齢24です。」
「そんな若造にやられるとは、騎士団の面目丸潰れだよ。お名前と種族は?」
「トゥワ・エンライト。有翼です。」
エルフの耳がピクリと動いた。
「どこかで聞いたような気がするねぇ。出身地は?」
「ミオネラ王国です。」
「思い出したぞ。ミオネラ王国の有翼と言えば王族。魔法を使うのは確か、第二王子か?」
エルフはトゥワの顔をじっと見た。トゥワは頷いた。
「ワンド大学からの帰り道でした。道中グリフォンに襲われたから倒し、馬車の同乗者がオーガに悩まされていると聞いて倒しました。」
「災難でしたねぇ、殿下。それじゃ、ワシらのメンツの話しをしましょうかね。」
エルフはニッコリと笑った。トゥワは顔をしかめる。
「困るんですわ、殿下。ワシらが放置しとった魔物を一人で易々と討伐されちゃあ。」
「私もそれが分かっているから、オーガの群れは急に現れなくなったことにしようと、村人と口裏を合わせていたのです。その筋書きではいけませんか?」
「殿下を連行する前なら、そのふざけた筋書きも通ったでしょうけどねぇ。」
エルフは髪をくるくると弄びながら考えている。
「このことが上に知られれば、ワシはオーガの群れを放置した罪に問われる。減給くらいですみゃいいが、他国の王子が関係したとなると、下手したら外交問題。最悪クビきりになるんですわ。」
エルフは冷たい目でトゥワを見ている。
「貧しい村の下等種族が何人か喰われたとて、それだけで奴らが帰るなら、下手に騎士団を向かわせるより安いもの。どうせ彼らは今後もワシらに守ってもらわにゃならんので、上に泣きつくこともできないはずでした。そこに正義感を振りかざした若い権力者が通るとは、手痛い誤算ですなぁ。」
トゥワは嫌な予感がした。このエルフは明らかに話しすぎだ。この発言を告発されれば、人権問題として重罪になる。敢えてトゥワを挑発しているようにも思える。
「先程は人間を下等種族呼ばわりしたワシの部下を殴ったと聞いたが、大人しいものですなぁ。思ったほど馬鹿じゃあないらしい。」
「私を殺して口封じするつもりですね。」
「ワシを数発殴ってくれりゃあ、危険人物だと言っても信憑性があっただろうが、まあいい。罪状なんていくらでも作れる。」
トゥワはエルフを睨みつけた。
「それこそ外交問題ですよ。他国の王子を冤罪で処刑するなんて。この件が明るみに出ないとお思いですか?」
「その辺は上手くやれる。ミオネラ王国だって、それほど強力な魔法を使う王子の存在を疎む者がおるだろうさ。帝国を敵に回したくないって連中もね。弱者の群れじゃあないか。後ろ盾と袖の下さえあれば口裏を合わせられるってもんよ。」
無謀なようで合理的な判断かもしれないと、トゥワは反論できなかった。相手の方が情勢をよく知っている。
「騎士としての誇りはないのですか?」
エルフは高笑いした。トゥワは怪訝そうに彼女を見つめる。
「若いね、殿下。せいぜい聖神とやらに祈るんだね。連れて行きな。一番奥の独房へ。」
「お待ちください。どうかご再考を!」
トゥワの訴えも虚しく、巨人二人がかりで押さえつけ、口輪を嵌められた。エルフは去り際に、トゥワの耳元で囁いた。
「ルーイン様にお仕えすると言うなら、助けてやってもいいがね。」




