魔物討伐(2)
トゥワは即座に馬車の外に飛び出した。鷲の鋭い眼光がトゥワを捉えた。鷲の上半身に獅子の下半身をもったグリフォンが背後から駆けてきている。これほど多くの荷物とヒトを乗せた馬車ではすぐ追い付かれるだろう。馬を襲う習性のあるグリフォンに狙われてはひとたまりもない。
「行ってください!」
トゥワは叫ぶと、グリフォンに向かって駆け出した。グリフォンは小さなヒトの襲来を何とも思っていないようで、スピードを緩めず走ってくる。トゥワはグリフォンに近付くと、大声で呼び掛けた。
「怪我をしたくなければ帰ってください!」
グリフォンは完全に無視して走っている。トゥワは爆走するグリフォンに大声を出した。
『止まれ!』
グリフォンは足を止めた。トゥワが追撃するか迷っていると、グリフォンはすぐに動けるようになってトゥワに向き直った。
「流石ですね。その実力なら3…いえ、4層にお住まいですか?貴方ならもっと楽に狩れる獲物があるでしょう?今日の所は帰りませんか?」
グリフォンは馬車を追うのをやめ、トゥワと戦うことにしたらしい。トゥワは溜息を吐きながら臨戦態勢になった。
「ブラストブレード。」
足元の地面を大きく揺らし、ひび割れさせながら飛んで行った風の刃が、グリフォンの胸元を紅に染め上げた。グリフォンはよろよろと下がる。
「この魔素濃度だとこんなものですか。」
グリフォンはトゥワに突進してきた。トゥワは風を纏った高速移動で避け、追撃しようとしたが、グリフォンの口から放たれた電撃に痺れ、その場に座り込んだ。
「雷魔法は避けきれませんね。風では防ぎにくいですし。」
まだ座っているトゥワを裂き殺そうと、グリフォンは鉤爪の付いた前脚を振り上げた。トゥワは立ち上がりつつ魔法を使う。
「スカンダ。」
トゥワはグリフォンの背後に回り、自分を見失っているグリフォン目掛けて魔法を放った。
「エアブレット。」
トゥワが放った魔法は、グリフォンの心臓を貫通した。グリフォンは血を撒き散らしながらトゥワに電撃を放ったが、程なく地面に倒れ、二度と動かなくなった。
トゥワはグリフォンの死体を無視して、馬車に戻るために駆け出した。馬車はトゥワの姿を認めると止まり、トゥワを乗せてグリフォンの死体がある所まで戻った。
「信じられない。一人でグリフォンを倒すなんて。熟練の冒険者か何かですか?」
「ただの学生です。」
「そうでしたね。こんなこと、ただの学生さんにお願いしてよいことではないと分かっているのですが…。」
人間はトゥワに深々と頭を下げた。
「どうか、カルムに出たオーガの群れを討伐してはいただけませんか?」
「構いませんよ。」
「無論、我々にできるだけの報酬は…って、え?」
「オーガの群れくらい余裕で倒せます。報酬などお構いなく。私のことを言いふらさないでくださればお安い御用です。つまり、口止め料ですね。」
人間は呆気にとられたようにトゥワを見ている。トゥワはクスクス笑った。
「このグリフォンはどうします?」
「このまま置いて、カルムに着いたらヒトを向かわせましょう。頑丈すぎて手持ちの剣では傷一つ付けられませんし、馬車に積み込むには重すぎます。」
トゥワも同意見だったので、人間の言葉に従った。程なくして馬車はカルムに到着した。カルムは魔素濃度が低く、人間が多い場所だった。当然、強い魔物と戦えるような戦力も、戦力を雇えるような財力もないだろう。




