狂ったお茶会(7)
「聖教徒ですか。今日は教会を開けられません。お引き取り下さい。」
トゥワは外に呼び掛けるが、返事も帰る気配もない。トゥワは支配の魔法を籠めて言った。
『去れ。』
次の瞬間、トゥワは扉ごと吹っ飛ばされた。軽く身体強化の魔法を使っていたお陰で、トゥワは天井に飛び上がって難を逃れた。侵入者はローブを着ていることだけは辛うじて分かったが、暗闇で何も見えない。
「精神系遮断魔法ですか。」
当然返事はない。代わりに足元から無数の矢が飛んできて、トゥワは音だけでそれを躱して地上に降り立たなければならなかった。降りた後も正確に追撃が来るのを見て、トゥワは敵が夜行性種族であろうと思った。昼行性であるトゥワの視界は真っ暗だが、夜行性の種族であれば暗闇の中でも昼間のように動ける。
「こちらだけ見えないのはアンフェアですね。」
トゥワは空中で蝋燭のあったと思われる方に手を向けた。
「ファイア。」
トゥワが呟いた途端、巨大な火の玉が出現して燭台を熔かした。トゥワは想定外の威力に慌ててその辺りを真空にして鎮火した。
確かに翼が出ている時は使える魔力が数倍に膨れ上がるが、頭痛が酷いせいか何も制御が利かない。トゥワは敵に対して魔法で攻撃しなくて良かったと思った。これでは殺してしまう。
「えー、今の攻撃を受けたくなければ、大人しく手を挙げて降参して下さい。」
トゥワの呼び掛けに相手が応じる様子はない。きっと魔物ではなくヒトを殺して売れそうな部分を切り取っていく、ヒト狩りと呼ばれる連中だろう。
近接魔法が使えないのでは相手を取り押さえる手段がない。魔力切れを待っても良いが、もし仲間がいたら困るし、何より今にも倒れそうな頭痛である。そもそも相手が自分に対して明確な殺意を向けているのだから、これは正当防衛というやつだろう。
トゥワは自分の頬を叩いた。これほどの魔力を持っていながら、ヒト一人満足に取り押さえられないなんて情けない。ましてや魔物を狩って生計を立てることすらままならないような実力の者に…。トゥワがそのようなことを考えていると、四方八方から短刀が飛んできた。
「エアシールド!」
トゥワがどうにか止めると、次は頭上から巨大な鉄の塊が落ちてきた。シールドが潰される前にトゥワは叫んだ。
「スカンダ!」
トゥワは瞬間移動のような速さで風を纏って逃げたが、逃げた先にも罠があり、足を負傷した。
これはヒト狩りの実力ではない。アサシンか何かだ。トゥワは攻撃魔法を使うことを決心した。
「ウィンド。」
ガラスが割れる音が響いた。ローブの人物は激しく壁に叩きつけられたようだが、特に負傷していないようだ。身体は丈夫な種族らしい。
「もう少し強くても大丈夫か。」
トゥワは微かに呟いた。