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黒翼の羽ばたき  作者: 馬之群
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前期の終わり(6)

 リェナはしばらくすると起き上がれるようになったので、トゥワはリェナの部屋まで送りに行った。


「申し訳ありませんでした、リェナさん。」

「私こそ、殿下をお止めする立場でありながら…。」

「今回は全面的に私の責任です。この埋め合わせは必ずします。」


 リェナが紙の下で微笑んでいることなど、トゥワには知る由もなかった。


「期待しております、殿下。」


 翌朝、目を覚ましたトゥワは前日のアミーへの言動を思い返して顔を覆った。もう魅惑魔法は完全に解けていた。


「魅惑魔法ってこんなに凄いのか。すっかり我を忘れて、恥ずかしい。酷い醜態だ。これじゃ、ツェラのこと言えないな。」


 聖教徒として誰よりも厳格でなければならないミオネラ国王の妹という立場でありながら、未婚のはずなのに赤子を連れて現れた女。父親が誰なのか頑なに明かそうとはしないが、有翼どころかヒトとは思えないほどの魔力を持っているのだ。父親もどうせ碌な存在ではない。

 トゥワはツェラの気持ちの一端を理解したとも言えるような自身の発言を嫌悪した。しかし、魅惑魔法を掛けられたのなら許されざる恋情に身を焦がしたとしても納得できると思えた。それほどまでに甘美な時間だった。


「何にせよ、期末試験前に魔法が解けてよかったよ。」


 ワンド大学の試験は、普通に落第者が多数出る類のものだ。何年間で卒業するという概念も存在せず、数十年間に渡って必要な単位を取ることができずにいるヒトもいるとか。流石にそこまで来るとただの怠惰だろうが。


「あー、もう駄目だ。」


 だらしなくベッドに寝そべりながら、アミーが愚痴を零した。


「あれから一向に魅惑魔法が使えないんだけど。やっぱりたまたまだったんじゃないの?」

「そんなことはないと思いますけど…。トラウマになってしまったのかもしれません。」

「このままだと落第だよ。トゥワも来年度一緒に受け直さない?聴講だけでいいから。あと一年練習に付き合ってくれたら単位を取れる気がする。」


 トゥワは本を読みながら返事した。


「私は生憎ここで骨を埋めるつもりはないので、そんな悠長なことはできません。今学期も来学期も可能な限り多くの単位を取って、今年中に出て行くつもりです。」

「つれないなあ。」

「落第しなければ済む話ではありませんか。」

「簡単に言ってくれるよ。まったく。トゥワに訊いた僕が馬鹿だった。」


 アミーは不貞腐れたように寝返りを打つと、練習用のゴーレムを取り出した。


 それから1、2週間で期末試験とレポートは全て終わり、さらに数週間後には成績が発表された。


 トゥワにとって、魔法の技能は簡単にS評価を取ることができた。風魔法は難易度別に分けてある移動対象物5つを同時に最高難度のコースで移動させることができた。錬成魔法は課題10個全て、同じ物体を錬成できた。精神魔法に至っては、第一の課題を達成した時点でホムンクルスが完全隷属状態にあると認められ、途中で試験を切り上げてよいと言われた。

 実技系の科目で唯一、苦戦した科目がある。それは『魔素制御基礎』で、成績はCだ。落第すれすれだった。魔法変換率は体感三割ほどだったから、無理もない。


 理論の科目は試験に加えてレポートもあるという非情さだったが、どうにか全て単位は取った。


「精神の実技、落単したぁ。」

「来年こそ単位を取れますよ。」

「わぁ、課題の一つ目で合格が決定したヒトが何か言ってる。」


 トゥワはやけ酒のように血を呷るアミーを見て苦笑いした。


「まあ、単位のことは一旦忘れましょう?せっかくの長期休みですよ。」

「トゥワは故郷に帰るんだよね?」

「ええ。会いたいヒトがいるもので。」

「例のワイバーン?」

「まあ…。」


 アミーは溜息を吐いた。


「僕も帰るしかないか。」

「帰りたくないのですか?」

「そりゃ、伯爵の顔なんて見たくもないさ。でも、一人で大学に残っても仕方ない。あー、荷造りが面倒だなあ。」


 それから数日後、トゥワはミオネラ王国に戻る支度を整えた。アミーと別れの挨拶を交わす。


「じゃあな。また休み明けに会おう。」

「はい。聖神の導きがありますように。」


 トゥワは祈るように手を組んだ。握手を交わそうとしていたアミーは面食らう。


「ミオネラ流の挨拶?面白いね。聖神の導きがありますように。そして、血が枯れ果てる前に巡り合おう。」


 アミーはトゥワの真似をして祈った後で、改めて握手を求める。トゥワもそれに応じて手を握り返す。


「はい。血が枯れ果てる前に巡り合いましょう。それでは。」


 トゥワはリェナと共に、遥か彼方、ミオネラ王国への帰路に着いたのだった。

【相手するのが得意な種族と苦手な種族】


1.トゥワ・エンライト

得意な種族:獣人など、精神魔法の耐性が低い種族。一度支配してしまえば長時間維持できる。

苦手な種族:三眼など、魔法を無効化する種族。魔法に頼った戦い方なので、封じられるとどうしようもない。


2.アミー・コート

得意な種族:魔法使いなど、魔力が高いが魔力切れが早い種族。自分の再生限界より相手の魔力切れの方が早いので、魔力が切れてから制圧できる。

苦手な種族:天使など、退魔能力が高い種族。祓われたら不死でも消滅する。


3.リェナ・アーク

得意な種族:エルフなど、魔法は得意だが、身体能力が低い種族。魔法を無効化したら、肉弾戦で制圧できる。

苦手な種族:巨人など、身体能力が高く、魔法をあまり使わない種族。シンプルな力比べでは勝ち目がない。

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