表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒翼の羽ばたき  作者: 馬之群
67/83

前期の終わり(4)

 リェナはふと姿を消した。リェナのいた床はずたずたに裂けている。リェナはトゥワに何発も蹴りを入れるが、いくつかは逸らされ、当たったものも深刻なダメージは与えていないようだった。トゥワが手をかざすと、リェナは息を乱しながら退いた。肩に風の刃が当たって出血している。トゥワはその隙に移動し、自分の机を背にリェナに向き合う。


「魔法を使うスピードが速すぎますね。消すのが間に合いませんよ。」

「勝てそう?」

「弑することなら可能だと思われます。手加減できる相手では御座いませんので。」

「そんな…。」


 トゥワが風魔法でリェナに攻撃した。トゥワの机の上から書きかけのレポートの羊皮紙が舞い落ちる。


 リェナもトゥワも殺気に満ちていた。アミーは呆然としながらも、状況の打開策を考え始めていた。

 最優先で対処すべきはトゥワだ。トゥワは狂気に陥っており、自分の意思で攻撃を止めることができない。現在はアミーに魅惑されており、リェナを排除しようとしている。正気に戻すにはどうすればよいだろう。


 魔力切れを待つか、制圧するのが一番良いのだが、トゥワが強すぎて難しい。これだけ戦っても魅惑されたままなら、衝撃で魔法が解けることは期待できそうにない。助けを呼びに行くことはできるだろうが、この戦いに混ざれるヒトなどそうそういない。

 そうこうしているうちに、リェナがトゥワを追い詰めている。トゥワはもう満身創痍だ。それでも繰り出す攻撃は致命的で、リェナも手を抜けないことが見て取れる。


「お赦しを、殿下!」


 リェナは体勢を崩したトゥワの心臓目掛けて拳を突き出している。アミーは叫んだ。


「トゥワ!」


 その瞬間、トゥワは迫りくるリェナの拳からアミーへと視線を移した。それが対処を遅らせたのだろう。トゥワはリェナの拳を胸にまともに受け、盛大に血を噴いて崩れ落ちた。


「もう止めろ!」


 アミーはトゥワの身体を抱え起こした。不完全とは言え、魅惑魔法はしっかりと効いている。命の危機が迫るのに術者に反応するくらい強い魔法なんて、アミーが使えるはずはない。しかし、トゥワは確かにアミーに呼ばれて警戒を解いてしまった。

 トゥワは血を失いすぎて蒼い顔をしながらも、嬉しそうに笑っている。死の淵にあるのに。その異様な光景はアミーの記憶を呼び覚ました。


「殿下、すぐお手当てを致します。」


 リェナが駆け寄ると、トゥワは左手に隠し持っていた羊皮紙の切れ端を広げた。血文字でミオネラの文字が書かれている。リェナにはその意味が分かった。


『死ね。』


 リェナが口を開けた。アミーは咄嗟にその口に手を入れた。その手は強く噛まれて血が滲んだが、アミーは手を引っ込めなかった。リェナはアミーを乱暴に引き剥がし、虚ろな表情のまま、手近にあったペンを自分の喉に突き立てようとするが、アミーは自分の手を挟んで止める。アミーの手にはペンが突き刺さり、痛みで顔をしかめる。


「頼むから、正気に戻れ、トゥワ!」


 トゥワは呆然としていた。口だけが動いている。


「私のせいでアミーさんが血を流した。私のせいで。私のせいで。」


 アミーはトゥワの精神が乱れていることを知り、最後のチャンスとばかりに声を張り上げた。


『エンチャント!』


 トゥワはハッとしたように目を見開いた。必死の形相で叫ぶ。


『死ぬな!』


 無理して叫んだトゥワは大量に血を吐くと、そのまま目を閉じた。リェナも正気に戻り、慌ててトゥワに駆け寄る。アミーは手に刺さっているペンを引き抜いた。引き抜くや否や、アミーの怪我は完全に治っている。


「ヒトを呼んできてください。早く!」


 アミーは言われるがままに部屋を飛び出した。血塗れで取り乱しているアミーを見て異常事態を察した学生たちは、言われた通りヒーラーを呼んでくれた。何だかんだ言いつつ、リェナはトゥワに致命傷を負わせることを避けていたようで、派手な出血の割に内臓の傷は少なかったトゥワは、数時間で起き上がれるほど回復した。


 回復が遅いのは寧ろリェナの方だ。どうやら、回復魔法は無効化してしまうようで、薬に頼って治療をしている。医務室のヒトはまだ治療を受けるように言ったが、トゥワとリェナは歩けるようになるとすぐ帰りたいと申し出た。三人は医務室から部屋へと戻り、トゥワは自分の、リェナはアミーのベッドに横になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ