前期の終わり(1)
【主な登場人物】
・トゥワ・エンライト…本作の主人公。有翼でワンド大学の学生。ミオネラ王国の第二王子である。精神系魔法である支配魔法、風魔法が得意。
・アミー・コート…トゥワと同室の学生。セフタ公国の伯爵家の吸血鬼。魔法の実技は苦手だが、理論は熟知している。
・リェナ・アーク…トゥワの従者。三眼で、ミオネラ王国の出身。
「ごめん、トゥワ、やっぱり支配魔法で僕の魅惑魔法を強化して!」
アミーはトゥワに向かって手を合わせて頼み込んだ。そろそろ一年生の前期が終わる。期末試験の時期である。アミーは実技で落第しそうな状態だった。
「うーん、二人とも叱られませんかね?」
「何か言われたら僕がどうにかする。頼むよ。ヒト助けだと思って。お礼なら何でもする。」
トゥワは書きかけのレポートからアミーに視線を移す。
「リェナさんを補助に呼びますね。」
「ありがとう、トゥワ!一生恩に着るよ。」
「不死者からそう言われると重いですよ。強化できるかどうかも分かりませんからね。」
トゥワはリェナを呼び出し、事情を説明した。
「話が見えてきました。私は支配魔法の調整をすればよいのでしょうか?」
「流石リェナさん、話が早いですね。アミーさんが精神異常をきたさない程度に、私の魔法を無効化してください。どうも私はその辺の加減が苦手でして。」
リェナはアミーの方に顔を向けた。
「魔法を無効化できるの?しかも加減を調整しながら?すごくない?」
「光栄です。その能力を買われて、殿下の従者に選ばれましたので。殿下から他のヒトをお守りすることは本業の範疇です。」
リェナは淡々とした口調で言った。トゥワは珍しく焦った口調で、早口でまくし立てる。
「魔法を使えないヒトがほとんどを占める国で、若くて無分別な王子が強力な魔法を使いますからね!でも、その言い方だと私が危険人物みたいではありませんか。心外です。」
「なるほどね。セフタ公国を聖神が闊歩するようなものか。」
「アミーさんもそれで納得しないでくださいよ。」
いや、まあ、実際危険人物ですけど。という呟きはトゥワの喉奥に呑み込まれた。リェナはアミーに許可を取って、手を握っている。アミーの体内の魔素の流れを感じ取り、どのくらいの支配魔法に耐えられるのか測っているのだ。
「確かに、潜在能力はあるとお見受けしました。魔法を使うことに抵抗があったり、何かトラウマになるような経験をなさったりしてはいませんか?」
アミーの目が泳いだ。
「どうしてそんなことを訊くの?」
「潜在能力が高い割には、魔法を使うことがお得意ではないようですので。魔法を使うことそのものに抵抗があるようでしたら、殿下の支配魔法で無理に魔法を使うと、トラウマが悪化してかえって魔法を使えなくなる恐れがございます。」
「あー、じゃあ一応話しておくか。」
アミーは頭を掻いた。
「あれはまだ、僕が人間だった頃の話だ。僕は凡庸な家庭に生まれた凡庸な人間として、それなりに幸せな暮らしをしていた。今の父親、伯爵に出会う前は。」
アミーは拳をグッと握り締めた。自らの爪で血が滲むほどに。
「伯爵ともあろうお方が自ら狩りをするなんて解せないが、どうも僕の銀色の眼がお気に召したそうだ。直々にお出ましになって、僕と家族全員に魅惑魔法をお掛けになった。その上でお尋ねになったんだよ、吸血鬼にならないかと。僕は喜んで従った。」
リェナが息を呑む音がした。アミーは唇を噛んだ。
「渇いて、いたんだ。どうしようもなく…。吸血鬼となった直後の僕は。何がどうしたか思い出せない。気付いた時には、僕の家族だったものは、大量に血を吸われて瀕死の状態で床に倒れていた。」
アミーの銀色の瞳が潤み、いっそう輝いて見えた。トゥワは見ていられず目を逸らす。
「重傷を負っても笑顔を浮かべ、吸血鬼に心酔しながら首筋を差し出す家族が怖かった。元家族を殺しそうになっている僕を平然と見ている伯爵が怖かった。何より、彼らに無意識のうちに魅惑魔法を掛けて、その異様な光景を作り出している自分が一番怖かった。」
アミーは頬を濡らしながら震えていた。トゥワとリェナは掛ける言葉もない。
「僕が魅惑魔法を使うことに抵抗を感じているとすれば、きっとそのせいだ。」
「辛いことを思い出させました。申し訳ありません。」
「いや、元はと言えば僕が無理を言って魅惑魔法を強化して!なんて頼み込んだわけだし、その後だって勝手に話し始めたし。トゥワが気を遣う必要なんて露ほどもないよ。」
アミーはいつもの表情と声色に戻った。




