魔界での打ち上げ(1)
【主な登場人物】
・トゥワ・エンライト…本作の主人公。有翼でワンド大学の学生。ミオネラ王国の第二王子である。精神系魔法である支配魔法、風魔法が得意。
・ザラ・テーラー…ワンド大学の理事長で、竜人。オラクル帝国に住んでいる。
・アミー・コート…トゥワと同室の学生。セフタ公国の伯爵家の吸血鬼。魔法の実技は苦手だが、理論は熟知している。
・クックー・ディフォンス…ルー・ガルーでワンド大学の学生。ソワレ王国の子爵の息子。身体強化魔法が得意。
「調子はどうです?」
「…何故か悪化し始めた気がします。」
トゥワは医務室で横になりながら言った。見舞いに来た人物は、柔らかい布で神経質に赤い角を磨いている。理事長のザラだ。
「じゃあ手短に用事を済ませましょうかね。賭けのこと、覚えていますね?」
トゥワは頷いた。
「大会が中止になった今、賭け自体を白紙に戻そうかとも思いましたが、大会が中止になったのは私の責任ですからね。此方の落ち度の落とし前はつけましょう。その前に一つ確認しておきたいのですが、デューイ・エンライトの居場所を教えたらどうするおつもりで?」
「どうするって…。仮にもデューイ殿下は私の兄ですよ?行方不明になっていた兄の居場所を弟が知りたいと思うことが不自然ですか?」
ザラはじっとトゥワを見ている。トゥワは負けじと睨み返す。
「君に家族の話をすると不自然なくらい動揺する。その眼差しは殺意を秘めている。私にではない。家族に対してだ。」
ザラは独り言のような口調で言った。
「デューイ・エンライトと相当な確執があるようですね?」
「あなたに何の関わりもないことです。殿下は今どちらに?」
トゥワは動揺する素振りを見せずに言った。
「その前に、少し昔語りをさせて下さい。私が生まれた頃、五百年前の地上はもっと殺伐としていました。丁度、魔王ツィーゲの全盛期だったので、辺りを魔物が跋扈する中、日々生きていくことも大変でした。私の両親は物心つく頃は既におらず、私は十人の兄弟と共に周囲の魔物を狩ってその肉を喰らう日々でした。」
トゥワは戸惑いながらも話を遮らなかった。ザラはさらに続ける。
「兄弟が力を合わせても、全員が食べていけるだけの魔物を狩ることは容易ではありません。食料が足りないと感じた時、私たちは決まってある決断をしました。…口減らしです。」
ザラは苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「一番狩りに貢献できていない兄弟を追放したのです。その兄弟が野垂れ死にすることは分かっていましたが、下手に情を掛けると全員が死にます。幸い私は群れのリーダーである姉に可愛がってもらって、群れの重要な地位にいたため、簡単には追放されませんでした。しかし、徐々に人数が減り、狩りをするのに最低限必要な人数に迫った所で、遂にその時が訪れました。私が群れを追放されることになったのです。」
ザラが言葉を切ったので、トゥワは先を促した。
「それで、どうなったのですか?」
ザラは自嘲的な笑みを浮かべた。
「どうしたと思います?私は今も生きているでしょう?大人しく追放されたと思いますか?」
トゥワは考え込んだ。
「狩りをするのに最低限度必要な人数だから減らせないと説得したのでしょうか?」
ザラは口角を僅かに上げた。
「その場で不意を突いて姉を殺しました。」
「…え?」
トゥワは耳を疑った。
「彼女は狩りの中心でした。彼女が死んだら、残った兄弟全員で力を合わせないと狩りがままならなくなる。兄弟たちは私の行動で死のリスクが上がったことを怨んだでしょうが、私を殺すことも、追放することもできなくなりました。私までいなくなったら、本当に狩りをすることができなくなると分かっていたからです。彼らは忘れていた。今まで口減らしをしても反撃に遭わなかったのは、残る兄弟の人数が多く、返り討ちにすることが容易であったからだと。」
ザラの鱗と角は血のように紅く光っている。トゥワはただ黙っていた。
「五百年経っても、私はずっと悪夢の中にいます。私を可愛がってくれた姉が、今際の際に裏切者の私を見た、驚いたような表情と生温かい血の感触が離れない。分かりますか?ザラ・テーラーとなる前の名もなき竜人だった私は、あの瞬間死を迎えてしまった。」
ザラは自分の手を見つめながら微かに震えている。トゥワは掛ける言葉が浮かばなかった。
「…デューイ殿下と仲良く、とでも言いたいのですか?」
「私はただ昔話をしただけ。何を思おうと君の自由だ。さて、デューイ・エンライトの居場所だったかな。ふふ、スュグ・エンライトの所にいるのを見ましたよ。」
トゥワは眉をひそめた。スュグはトゥワとデューイの姉である。
「スュグ殿下とお知り合いですか?」
「魔法の研究で学会によく出ていますよ、スュグ・エンライトは。御存知ない?」
ザラは不思議そうな表情を浮かべている。
「有益な情報をありがとうございました。」
「それは良かった。お大事に。」




