狂ったお茶会(5)
「いずれにせよ、君が入試で我が妹を軽々と押さえて実技トップだった事実は覆るまい。そう謙遜するな。」
トゥワは懐から翼出抑制剤を取り出し、口に放り込んだ。このままでは彼らの前で翼を出してしまう。
「失礼。気分が優れないもので。入試の件につきましても、私にとって実力を出しやすい状況だったにすぎません。環境が変われば結果も変わるでしょう。申し訳ありませんが、下がらせて頂いても構いませんか?まだお話があるようでしたら、後日改めて私から伺います。」
トゥワは激しい頭痛と背中の痛みに耐えながら立ち上がった。
「医務室で休んでいきなさい。」
ザラが言った。トゥワは首を振りながら廊下に出た。廊下にはリェナとウィンドワードが立っていた。
「どうなさいました、殿下。」
「体調が悪いそうだ。すぐに医者を呼ばせよう。」
トゥワはリェナに目配せした。
「いえ、有翼の手当てはよく知っておりますので、私が対応致します。それでは。」
リェナはトゥワを軽々と抱き抱え、廊下を走り去った。ザラはその後ろ姿をニヤニヤと眺めていたが、ウィンドワードを下がらせて理事長室に戻った。
「どう思った?」
ルーカスがザラに尋ねた。
「彼がその気になれば世界を手中に収めることも容易いかと。地竜は誇り高い種族で、一度怒りを発すれば命尽きようと止まることはありません。その地竜を追い返し、剰えその後一年襲い来る気配がないなどと、聞いたことも御座いません。どのような魔法を使ったことやら。また、確かに有翼は体内の魔素を結晶化して翼として体外に出すことで高濃度の魔素に耐えられる種族ではありますが、ソーマを3本も飲むなど不死者でも行えるかどうか。ソーマの致死量は瓶の半分くらいだったはずです。考えられないことです。嘘だと思いたいくらいですが、あの反応は全て事実でしょう。」
ザラは一気にまくしたてた。ルーカスも笑いながら聞いている。
「あれの寿命があと三十年もなく、吐き気を催すほど高潔な人物であることを、聖神とやらに感謝せねばなるまい。あれは間違いなく本物だ。」
彼をこの大学に入学させたことを早くも後悔しそうです。」
ルーカスは紅茶を飲み干した。
「あれだけ追い詰めて何も手を出してこなかったのだ。問題あるまい。」
「殿下に付き合っていては命がいくつあっても足りません。彼が私たちを殺そうとしたらどうなさるおつもりだったのですか。」
ザラは憤慨した口調で言った。
「確かに危なかった。念のため防御魔法は強めに組んだつもりだったが、あの分では全て無効化することも可能だっただろう。油断大敵だな。」
ルーカスは立ち上がると同時に姿が見えなくなった。ザラは恭しく頭を下げる。
「気を付けてお戻り下さいませ、殿下。」
理事長室の扉が開き、閉まった。ザラは長い溜息を吐いた。窓の外は月もない真っ暗な空が広がっている。