カッコウとミートパイ(10)
「ディフォンス卿、如何されましたか。」
「息子の心配をしてはいけないか。あれほどの惨状を目の当たりにしたというのに、このような尋問を行うとは…。」
「申し訳ありませんが、規則ですので、もう少し外でお待ち下さい。」
親父は俺の方を一度も見ようとしなかった。
「ロゼは例のコインを持っていたと聞いたが?この地が奴らの勢力拡大のための拠点の一つになっていたのではないかね。これが明るみに出たら貴様はどうなるかな?」
「そんな脅しに、私が…。」
「貴様は脅しに屈しないとしても、他の騎士も含めて処罰を受け入れるつもりかね?」
俺はあの銅貨が思ったより重要な品だったことに気付いた。親父は冷徹に騎士団長を追い詰めていく。
「…もう尋問は終わりました。どうぞお帰り下さい。」
「嗚呼、お勤めご苦労。」
俺は親父の館に連れて行かれた。親父は俺の目の前で煙草を呑んだ。
「ワンド大学に行け。ゾンも一緒に。すぐに入学手続きをしよう。」
「…何があったか訊かないのか?」
「興味がない。」
ほとぼりが冷めるまではこの土地を離れた方が良いだろうと思っていたので、俺は親父の提案を受け入れた。一年近くソワレで肩身の狭い思いをしながら、俺は諸々の準備を整え、ゾンと一緒に入学試験を受けてワンド大学に入学した。
クックーは歯を食い縛った。全てを忘れて、自由な学生生活を謳歌したかったのに、トゥワによって現実に引き戻された思いだ。クックーは先程のトゥワの態度に苛立っていた。世間知らずの子どもが正論ばかり述べてくること、強いくせに、わざと自分の攻撃を受けたことが許せなかった。
「いつもの君らしくなかったね。どうしたの、トゥワ?」
アミーは医務室で治療が終わったばかりのトゥワに言った。
「少し虫の居所が悪くて…。ご迷惑をお掛けしました。」
トゥワはもう歯も含めて体中の傷が癒えていた。血が上っていた頭も幾分冷えて、先程の言動が如何に無礼だったか分かった。
「僕は構わないけどね。それに、こんなことを言ったらなんだけど、トゥワは想ったことを素直に言えない性格なのではないかと思っていたから、意見をはっきりと述べたことに対する安堵感もあるんだ。きっと、トゥワにとって譲れないことだったのだろう。」
トゥワはアミーから視線を逸らした。アミーの言う通りだ。トゥワは窓の外を見ながら眉根を寄せた。
赦せない。重婚などと言って好き勝手にヒトと関係を持っては、気分次第で捨てていくヒトのことが。あんな不誠実なことが赦されていいはずがない。自分は親が教会の認める結婚をしていなかったせいで、いつ処刑されてもおかしくないというのに、海を渡れば他の女性と結婚していて、そのことを説明していない男が悪びれもせず自由を謳う。
神がおられるなら、どうしてクックーを野放しにして、自分を裁こうとするのか、トゥワには分からなかった。正直者が馬鹿を見ると言うが、神は必ずしも自らを信じるものに対して寛大ではない。クックーが幸せに生きて、自分が不幸になるなんて、トゥワには赦せなかった。
「飯を食いに行かないのか、クックー?」
ゾンがクックーに声を掛けてきた。クックーは布団を被ったまま答えた。
「…いい。」
「具合でも悪いのか?」
「大丈夫だ。少し一人にしてくれ。」
ゾンは部屋を出て行った。クックーはゾンが全てを思い出してしまったらどうなるだろうと、不安になった。
クックー・ディフォンスには嫌いなものが三つある。一つは自分の出自、もう一つは母親と自分の罪、最後の一つは自分の良心だ。
【好きなもの(こと)、嫌いなもの(こと)】
1.トゥワ・エンライト
好きなこと…魔法を使うこと。
嫌いなもの…自分の黒い翼。
2.アミー・コート
好きなこと…勉強すること。
嫌いなこと…魔法を使うこと。
3.クックー・ディフォンス
好きなこと…戦うこと。
嫌いなもの…カッコウ。
4.ゾン・ターク
好きなもの…婚約者、ヴェリテ。
嫌いなもの…玉葱。




