狂ったお茶会(4)
確実に何か入っていることは分かったが、トゥワは断る口実を思い付かなかった。仮にルーカスがトゥワを毒殺しても、ミオネラ王国の誰一人として真相を暴こうとはしないくらいの権力者である。護衛もなく対面するところから察するに、魔力を封じる薬でも入っているのだろうという希望的観測のもと、トゥワは互いの安全のために紅茶に口をつけた。確かにミオネラにいた時には口にしたことのないおいしさだ。
「話を戻そう。君はミオネラ王国に現れ、村をいくつも焼いた地竜を『カタストロフ』さえ用いずに一人で倒したと聞いたが?」
「その節は『カタストロフ』を始めとする武器の数々と大軍を派遣して下さいましてありがとうございました。しかし、我らの国はあまりに帝国から遠く、武器の到着を待てる状況では御座いませんでした。殿下も御存じのように、我ら有翼は基本的に魔法を使えませんから、仕方なく私が一人で対処したのです。」
「責めているわけではない。寧ろ感嘆しているのだ。知らせを聞いた時は正直信じられなかった。災害級の魔物である地竜をたった一人で、それも魔法も使えないはずの有翼が殺したとは。」
トゥワは冷や汗を掻いていた。本当は大学入学など口実で、危険人物を誘き寄せて殺そうという算段なのではないかと疑ったが、危険のなさを訴えるより他にできることはなさそうだった。
「正体が地竜ではなくもっと下級の龍だったのかと思ったが、目撃者は口を揃えて目がなく、額にユニコーンのような角の生えた純白の巨大な龍で、周囲には乳白色の靄が立ち込めていたという。ミオネラが隠れて強力な武器を所有していたかと思ったが、その様子もない。」
ルーカスは足を組みながらトゥワをじっと見ている。トゥワは身体が熱くなるのを感じた。頭が痛い。
「聖神の導きでしょう。それに、私の魔力が地竜に匹敵するというわけではありません。ソーマで魔力を底上げしなければ足元にも及ばなかったはずです。」
ソーマとは魔法の素となる魔素を液体化したもので、飲むと一時的に魔力は上がるが、副作用があまりに大きく、非常時にしか用いられない。
「どのくらい飲んだのだ?」
「3本です。」
ルーカスは笑っている。トゥワは背中が熱くなるのを感じ、紅茶に何が入っていたのか悟った。翼出誘発剤だ。トゥワは、まさか彼らが自分の翼についての秘密を知っているのかと恐怖を覚えたが、そんなことを探っている暇はなかった。一刻も早くこの場を離れなければならない。