カッコウとミートパイ(8)
一時を回った頃だった。どこからか黒い服のヒトが現れ、きょろきょろと辺りを見渡し始めた。クックーはその顔を見て驚いた。確かに死んだはずのロゼ本人だ。ロゼはうろうろと動き回り、水車小屋の近くに着いた。中を確認すると、驚いたように辺りを見渡し、鍵を壊して中に入った。俺も慌ててロゼを追って水車小屋に入った。
「よくここが分かったね、ロゼ。早く逃げよう。クックーに会ったら大変だ。騎士団長には既に手紙を出した。ロゼを保護してくれる手筈になっている。」
ゾンはロゼによって拘束を解かれていた。俺は二人の前に進み出た。
「そういうことか…。オポッサムの擬死が騎士団を欺くほどだとはな。」
俺が言うと、ゾンとロゼは蒼ざめた。
「確かにこれは重大な証拠だ。悪く思うなよ。」
「逃げろ、ロゼ!」
ゾンは俺に襲い掛かってきた。俺はゾンを投げ飛ばし、ロゼを追おうとした。後ろから鉄の棒が飛んできたので躱すと、ゾンは俺の脚を掴んできた。俺は乱暴に振り解いた。ロゼはもう遠くに行ってしまっている。急がないと、ロゼが騎士団長に会ったら全てが終わる。俺は水車小屋の扉に手を掛けたが、鉄の棒によって歪んだのか、開かない。俺が体当たりしようとすると、ゾンが俺に覆い被さるようにして止めに来た。
「放せ!」
「行かせないぞ、クックー。もう少しでヴェリテの無念が晴らせるんだ。」
俺とゾンがもめていると、水車小屋の扉が外から蹴破られた。外に立っていたのは、血塗れの髪を振り乱したお袋が、手にロゼの首を持って立っていた。
「ロゼ!」
ゾンが叫んだ。俺を掴んでいたゾンの力が抜ける。
「後はお前の口を封じるだけだ。」
「待ってくれ、お袋。もう証拠はないんだ。ゾンには手を出すな。」
「ゾンの性格は知っているはずだ。私がヴェリテを殺したことを生涯忘れはすまい。今殺しておかないと後の憂いとなる。」
お袋は完全にゾンを殺そうとしている。ゾンも諦めたのか、俺の足元でぐったりとしている。俺はお袋がゾンの方に向かうのを止められなかった。ゾンはお袋を見上げて口を開いた。
「ポンム夫人、自首して頂くわけにはいきませんか?」
「するわけがないだろう。」
お袋はゾンの提案を鼻で笑った。
「貴方が本気でヴェリテを殺そうと思ったら、あんな不確実な方法は取らないはずです。暗殺者を雇うとか、他にいくらでも方法はあるでしょう。本当は貴方も後悔しているのではありませんか?」
お袋は高笑いした。生首を持って笑っているお袋を見て、俺は悪寒を覚えた。ゾンも震えている。
「もう遅い。まさか本当に死ぬとは思っていなかったことも事実だが、死んでしまった以上、隠し通さないといけない。ヴェリテの所に送ってやろう。」
「待って下さい。これをクックーに…。」
ゾンが懐から取り出したのは、褐色の小瓶だった。何か液体が入っている。
「これは?」
「任意の記憶を消す薬です。本当はロゼにあげるつもりでしたが、クックーにヴェリテと俺の死の真相を忘れてほしい。」
ゾンは俺を見ながら、小瓶を差し出してきた。俺はそれを受け取った。




