カッコウとミートパイ(7)
俺は返す言葉もなかった。重傷を負ったゾンを担ぎ上げ、こっそりと自宅の水車小屋に入った。俺はゾンを縛り上げ、猿ぐつわを噛ませた。並のルー・ガルーにとって、この拘束は殆ど意味をなさないが、ゾンの怪我の酷さから考えて、これで動けるはずがないと思ったのだ。
「少し待っていろ、ゾン。証拠を見つけて壊したらすぐ、お前を解放するからな。」
「んんー!」
ゾンは何やら叫んでいたが、俺はゾンを置いて出て行った。俺はヴェリテの家、ターク家、ゾンの知人の家や行きそうな場所などを隈なく探したが、証拠が何なのかさえ分からなかった。ゾンの持ち物がかなり売られ、大金が持ち出されたらしいことは分かったが、何に使われたのか分からない。
次の日、俺はゾンが俺に会う前に立ち寄っていたという薬屋を訪れた。そこは魔界で、かなり高価な薬が売っていた。ゾンが購入した薬の詳細は、袖の下を掴ませると簡単に分かった。任意の記憶を消す薬だという。どうやら、直接証拠とは関連がないようだ。俺は舌打ちした。時間の無駄だった。
「ディフォンス家の坊ちゃまですね。ヒヒヒ。あんなことがあって、さぞお辛いでしょう。この世は非常に不平等で、残酷で、無為なものです。」
薬屋は耳障りな甲高い声で言った。
「変なクスリの売込みならお断りだぜ。俺はまだそこまで堕ちちゃいねえ。」
「違いますよ。全てを壊してしまいたいとは思いませんか?」
俺は無視して帰ろうとした。薬屋は一枚の銅貨を取り出した。どこの国のものなのか、見たこともない紋様だ。
「それは?」
「もし、全てを壊してしまいたくなったら、魔界にある『レプラコーン』というカジノに行き、デュラハンのディーラーに『骨製のダイスはないか』と言って下さい。相手が『チップはあるか』と言ったら、この銅貨を見せることです。ただ、これをしたら、もう今までの暮らしには戻れません。本当にこの世の全てを壊してしまいたいと、そのために全てを失っても構わないと思ったら、ぜひ試してみることですね。」
俺は眉をひそめた。怪しい秘密結社か何かに誘われているようだ。
「俺が告発するかもしれないとは思わなかったのか?」
「告発できないようなヒトにしか、この銅貨は渡しませんよ。」
「一応持っておくが、使わねえよ。見込み違いだったな。あばよ。」
俺は銅貨をポケットに仕舞い、薬屋を後にした。その後もゾンの足取りをたどるが、あまり進展はなかった。
俺はこっそりとゾンに食事を運び、監禁し続けて、三日が過ぎた。俺は不安と焦りから目に見えて苛立つようになっていた。
「おい、お前ら!仕事をさぼって何の話をしているんだ!」
俺は自分の使用人に怒鳴り散らした。使用人はおずおずと答えた。
「すみません。実は、誰かが昨日、屋敷の傍で幽霊を見たというもので…。」
「下らん。さっさと仕事に戻れ!」
俺はハッと思い当たって、使用人たちを呼び戻し、噂の詳しい内容を聞き出した。
「夜中になると、黒い服を着たヒトが湖の畔に現れて、何かを探しているのだそうです。」
「幽霊と呼ぶのはどうしてだ?」
「そのヒトが、どうもロゼに似ているとか…。」
俺は考え込んだ。この幽霊は単なる噂好きの使用人の嘘なのか?そうでないとすると、この幽霊の正体は何者で、一体何をしているのか…。俺は夜中に湖に行ってみることにした。




