カッコウとミートパイ(6)
「そうだな、俺の妹を殺した奴は極刑にしなければ気が済まねえな。」
「例えばその犯人が…クックーの身近なヒトであっても?」
ゾンは俺の反応をじっと見ている。俺は心臓が高鳴るのを感じた。声が震えそうになる。ゾンは何か知っている。俺はゾンを睨んだ。
「…何が言いたい?」
「オレは知ってしまったんだ。全てを告発しようと思っている。その前にどうしても、クックーにだけは話をしておきたかった。」
俺は目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。もう駄目だ。ゾンは全てを話してしまうだろう。そういう性格だ。そうなると、お袋だけでなく、俺も身の破滅だ。
「…誰だ?犯人は一体、誰だ?」
「…ポンム夫人だ。」
ゾンは絞り出すような声で言った。
「確かか?」
「嗚呼。証拠もある。心の準備はしておいてくれ。」
「…告発しないで…心の奥に仕舞いこんではくれないのか?」
ゾンは答えなかった。俺は殆どゾンに掴みかかるようにして言った。
「黙っていてくれたら、俺は何でもする!頼むから…。犯人が捕まってもヴェリテは帰ってこないじゃないか。どうか…。」
「そういう問題じゃないだろう!ヴェリテはこの先の未来が全て奪われたのに、犯人はヴェリテの死によって得をして、のうのうと生きていくんだぞ。こんな理不尽なことがあって良いのか!オレには耐えられない。」
ゾンの言うことはもっともだった。俺は心の中でゾンとお袋、自分の名誉を天秤にかけた。
「俺が黙ってお前を帰すと思ったか、ゾン。お前のことだ、どうせ誰にも言っていないのだろう?」
「まさかオレを…殺すのか?」
ゾンの表情は、恐怖や怒りというより、ショックが強いようだった。俺は灰色の狼の姿になってゾンを睨みつけた。
「俺に話したのが間違いだったな、ゾン。」
ゾンは橙色の大きな狼に変身して、俺に牙を剥いた。俺はその爪が届く前にひらりと躱した。ゾンは何度も俺に向かってきたが、俺の身体強化の前になす術もなく、その攻撃は空を切るばかりだった。俺はゾンの後ろに回り込んで咬み付こうとしたが、ゾンは俺の首に回し蹴りを決めてきた。俺は一歩下がって首を回した。
「今からでも俺の目の前で証拠を破棄すると言ってくれれば、命だけは助けてやるよ。どうだ?」
ゾンからの返事は低い唸り声と剥き出しにされた牙だった。ゾンは鉄の棒のようなものを錬成して俺に投げつけてきた。俺はそれらを避けつつ、一気に距離を詰めてゾンの喉元に喰らいついた。生温かい血の味が広がり、ゾンは静かに倒れ込んだ。
「お前は俺に絶対に勝てない。このまま死にたくなければ、証拠を破棄しろ。」
ゾンは少しの間荒い息をしていたが、ゆっくりと目を閉じた。
「親友だったよしみで…一つ頼みがある。」
「言ってみろ。」
「オレの死体はダンジョンに投げ捨ててくれ。魔物たちが骨も残さず食べてくれるように。」
俺はゾンの頑固さがこの時ほど憎らしく思えたことはなかった。
「わざわざ死ぬことはないじゃねえか。お前が死んでも別に俺のお袋に罪を償わせることができるわけでもねえ。完全な犬死だ。」
「オレはもう、疲れた。親友の母親に自分の婚約者を殺され、家族からは触らぬ神に祟りなしと言われ、親友からは殺されようとしている。」




