カッコウとミートパイ(4)
ヴェリテは前日から軽い風邪を引いていたが、誕生日のナイトパーティーを楽しみにベッドで休んでいたのだという。夕方には全員で親父のいる館に出掛けるつもりで、俺は準備に勤しんでいるところだった。外は酷い雨だった。俺の家にずぶ濡れで駆け込んできた使用人は、随分長いこと説明を続けていたが、俺の脳は一言を処理しきれずに止まってしまっていた。
「ヴェリテ様がお亡くなりになりました。」
その後も何度も話を聞いて、ようやくその言葉が現実だと分かった。分からざるを得なかった。ヴェリテに会った時、バラ色だった頬は紙のような嫌な白さに変わっていて、柔らかかった肌はがちがちに硬くなってしまっていた。
「どうして、こんなことになったんだ?」
俺が尋ねると、使用人は恐らく先程述べたであろう説明を繰り返した。風邪を引いて寝込んでいるヴェリテを見舞いに俺のお袋がやってきた。持っていたバスケットにはミートパイとハーブティーが入っていた。ヴェリテはそれらを食べてしばらくして急に吐いたり下痢をしたりして次第に弱っていき、医者を呼んだが間に合わず、そのまま死んでしまったという。
「お袋が毒を盛ったのか?」
「原因は大量の玉葱を食べたことによる中毒症状でした。今、騎士団がポンム様に事情を伺っております。」
俺は何かの間違いだとしか思えなかった。お袋はヴェリテを実の娘のように可愛がっていたように思えたし、白昼堂々と毒殺するほど愚かでもなかった。きっと事故だろうと思いながら、俺はお袋など心配する余裕がなく、ただ妹を亡くした喪失感に打ちひしがれていた。
後日聞いたところによると、お袋は風邪を引いたヴェリテのために、喉に良いハーブティーを持ってきたつもりであり、玉葱がたっぷり入ったミートパイは、使用人のために焼いたつもりだったのだという。そのことは、バスケットを受け取ったオポッサムの獣人、ロゼにしっかり伝えたはずであり、ミートパイをヴェリテが食べてしまうとは想定外だったと述べたらしい。
肝心のロゼはと言うと、お袋が尋問されている間に毒を呷って死んでいたそうだ。現場には空になった酒瓶と毒の入った小瓶が落ちていて、魔法の痕跡はなかったそうだ。騎士団は、ロゼが誤って致死量の玉葱が入ったミートパイをヴェリテに食べさせてしまい、罪悪感から自殺したのだろうと判断し、この件を単なる事故として処理した。俺は釈放されたお袋と二人きりになると、気まずい沈黙を破って疑問をぶつけた。
「ロゼが自殺したということは聞いているか?」
「聞いているよ。」
「どう思った?」
「悲しいことだ。誰にでもミスはあるのだから、死ぬほど思いつめなくても良かったのに。」
お袋の表情は全く変わらなかった。俺は溜息を吐いてから、次の言葉を切り出した。
「俺は自殺ではないと確信を持って言える。ロゼは酒を全く呑まない。そういうヒトはたとえ自殺する時であっても酒は呑まないものだ。」
お袋は表情を変えなかった。
「…殺されたんだ、ロゼは。殺人犯にとって都合の悪いことを話すかもしれなかったから。違うか?」
俺の方が逆に緊張してきた。お袋は何も聞こえていないかのように静かに座っている。
「せめてこれだけは教えてくれ。…どうしてヴェリテを殺した?ヴェリテは俺の異母妹だ。俺が爵位を継ぐときの妨げにもならない。お袋には、ヴェリテやその母親に個人的な怨みがあるようにも思えない。」
お袋の表情が初めて変化を見せた。僅かに唇の端を持ち上げ、微笑んだのだ。俺は悪寒を覚えた。




