カッコウとミートパイ(2)
「ソワレでは重婚が法律で認められている。クックーは別に罪を犯していない。取り敢えずそのレディを宥めて話をしよう。」
トゥワは再びアスラを力尽くで止めた。
「よく言ってくれた、アミー。俺は別に嘘を吐いたわけでも、罪を犯したわけでもない。本当にアスラちゃんとも結婚するつもりだった。それなのに急に襲ってきやがって。被害者はこっちだ。」
「違うのおぉ。わたしはディフォンス様だけを愛しているのに、ディフォンス様はわたしだけを愛してくれないなんて耐えられないいぃ。」
クックーは鼻で笑った。
「あんたなんかが俺の唯一の女になれるはずがないだろうが。そもそも、俺と結婚しようと本気で思っていたのなら、ソワレの文化も調べるのが筋だ。そちらの不勉強で暴力を受けるのはおかしいよな。」
アスラはどっと泣き崩れた。
「泣くほど俺が嫌なら、あんたも他の男を夫にすればいいさ。気が合えば誰とでも結婚して、嫌になったら傷付く前にさっさと離婚する。そんな深刻になる必要はない。結婚なんて自由にすりゃ良いじゃねえか。」
トゥワはクックーの前に進み出て睨み上げた。
「何だよ。」
「確かに、ダンジョンにはダンジョンの掟、と言います。アスラさんがソワレの文化について知らなかったことは彼女の落ち度かもしれません。」
クックーは安堵の表情を見せたが、トゥワは更に険しい表情に変わった。
「ですが、貴方にも説明の義務がなかったとは言えないのではありませんか。彼女が傷付く可能性は分かっていたはずです。真剣に彼女を愛して誠実に向き合おうと思ったら、他にも結婚しようと思っている女性がいることを話して紹介するのが筋でしょう。」
トゥワの口調は丁寧だが、その態度はかなり攻撃的だった。クックーはこめかみをピクピクさせている。
「ハッ、流石ご立派な聖教徒様は言うことが違うな。何の筋合いがあって俺に説教するんだ?あんたのとこと違って、ソワレには息のつまるような規則がないんだ。あんたの常識を押し付けるんじゃねえよ。」
「貴方の常識を押し付けられている気もしますが…。確かに私も無礼でしたね。これ以上部外者が口を挟むのは止しましょう。ただ、最後に二、三、申し上げたいことがあります。」
二人は険悪な雰囲気だ。アミーは黙って成り行きを見守っている。
「貴方は先程から自由と仰るが、他人を傷つける自由はない。それに、結婚は生まれてくる子どもにも関係することです。家庭が乱れると子どもの心の健康にも悪影響を及ぼします。貴方の国の方針にまで口を出そうとは思いませんが、今後同じようなことがあれば、私も怒りのあまり、うっかりして魔法を撃ってしまうかもしれません。」
トゥワは静かだが、かなり怒っているようだ。クックーも顔が赤くなってきている。
「重婚と言っても別に家庭が乱れるとは限らねえだろうが。勝手な偏見で決めつけんな。俺の親父だって多くの妻がいるが、別に妻同士の争いなんかもねえ。幸せに暮らしてんだ。」
「今すぐに納得してもらえるとは思いません。気分を害されたのなら謝ります。配慮のない発言でした。ただ…。」
トゥワは少し言い淀んだが、結局口を開いた。
「本当に貴方は幸せでしたか?」




