カッコウとミートパイ(1)
【主な登場人物】
・トゥワ・エンライト…本作の主人公。有翼でワンド大学の学生。ミオネラ王国の第二王子である。精神系魔法である支配魔法、風魔法が得意。
・アミー・コート…トゥワと同室の学生。セフタ公国の伯爵家の吸血鬼。魔法の実技は苦手だが、理論は熟知している。
・クックー・ディフォンス…ルー・ガルーでワンド大学の学生。ソワレ王国の子爵の息子。身体強化魔法が得意。
・ゾン・ターク…ルー・ガルーでワンド大学の学生。クックーの親友で、ソワレ王国の貴族の出。トゥワと同じく錬成魔法の授業を受けている。
「ちょっと待って下さい。」
「駄目だよ、トゥワ。将棋に待ったなしだ。」
もうすぐトゥワが負けそうな将棋盤を見ながら、アミーはニヤリと笑った。トゥワとアミーは自室で将棋を指していたが、アミーの頭脳の前にトゥワはハンデをもらってもなす術がなく負け続けていた。
「外が騒がしくありませんか?」
アミーは部屋の扉に視線を移した。確かに乱暴な足音や怒鳴り声が迫ってくるように聞こえる。
「…確かにね。少し様子を見に行こうか。二人で、ね。」
「そんなに疑わなくても、アミーさんがいなくなった隙に駒を動かしたりしませんよ。」
「嫌だなあ、僕は何も言っていないじゃないか。」
アミーはクスクスと笑った。二人が廊下に出ると、廊下の床は大きな亀裂が入っていた。向こう側から駆けてくる男は灰色の髪をした見覚えのある姿で、その奥から地鳴りがしている。向こうもトゥワとアミーに気付き、息を切らしながら大声を上げた。
「助けてくれ!」
その声を聞くや否や、トゥワはクックーの方に駆け出していた。足場が悪く、思ったように速く走れない。クックーの所に辿り着く前に大きな音を響かせながら、クックーを追っていた者が姿を現した。
「逃がさないよおぉ!」
その叫び声だけでトゥワなどは吹き飛ばされそうなほどの巨体には不釣り合いな小さな目が、怒り狂ったように精一杯見開かれてクックーを睨みつけている。その足が床を踏み鳴らすと身体が飛び上がるほどの揺れが生じる。身の丈7メートルはありそうな巨人は、身を屈めながらもクックーを踏み潰そうと走っている。クックーは持ち前の身体能力を生かして逃げているが、踏み潰されるのも時間の問題に思えた。
「落ち着いて下さい!一体何が…。」
トゥワは対話を試みたが、巨人が足を踏み鳴らした衝撃でクックーが転び、巨人の足がクックーを踏み潰そうとするのを見て叫んだ。
「エアシールド!」
巨人の足はクックーの手前で止まった。巨人が足に力を入れたので、トゥワはさらに言った。
「スカンダ!」
次の瞬間、トゥワはクックーの身体を抱えて遠くに逃げていた。巨人は壁を叩いた。壁が崩れて瓦礫が降ってくる。
「邪魔しないでよおぉ。ディフォンス様は生かしておけないのおぉ。」
「…まずはその理由をお聞かせ下さい。」
「わたしは、アスラ・ロック。ネフィリムで、ディフォンス様の恋人よおぉ。ディフォンス様は私を愛していると、結婚しようと言って下さったのおぉ。それなのにいぃ。」
アスラは大粒の涙を零している。クックーが逃げようとしたため、トゥワはウィンドで転ばせた。
「他にも結婚を約束した女がいるなんて信じられないいぃ。裏切りよおぉ。わたしは本気でディフォンス様を愛していたのにいぃ。」
「クックーさん、彼女の言っていることは事実ですか?」
クックーはトゥワをキッと睨みつけながら立ち上がる。
「嗚呼、そうだよ。」
「それなら仕方ありませんね。アスラさん、もう私は貴方を止めません。」
クックーの顔が引きつった。アスラは再び怒りの形相に変わる。
「殺してやるうぅ!」
「ま、待ってくれよ、トワ!」
トゥワは哀れみとも軽蔑ともつかない表情でクックーを見ながら、何もしようとはしなかった。
「どうしようもないことです。重婚は死罪に当たる重罪で、被害者には加害者を裁く権利がありますから。」
「違うよ、トゥワ。」
息を切らしながらアミーが現れた。




