狂ったお茶会(3)
「存じ上げております。ミオネラ王国第二王子のトゥワ・エンライトと申します。お会いできて光栄です、殿下。」
「齢は?」
ルーカスは紅茶を飲みながら訊ねた。
「百齢24、年齢9に御座います、殿下。」
この世界にはヒトと称される様々な種族がおり、それぞれ寿命がまちまちである。生まれてからの年数である年齢だけを述べても誤解が生じてトラブルになるため、種族寿命を100歳とした百齢というものを述べる。例えばこの世界の人間は寿命が70年であるため、年齢14で百齢20と換算するのだ。つまりトゥワは寿命が37.5年の種族であるということだ。
「ハハハ。生まれて9年目にして龍殺しとは。末は勇者かそれとも神か?」
ルーカスは朗らかに笑った。トゥワは恐怖のあまり笑うどころではなかった。
「殿下、どうやら口に翼の生えた者がいたようです。理事長から入学の勧めが来た時から感じておりましたが、その件につきましては誤解が御座います。私は龍を殺したわけではなく、あの方が自ら去ったのです。」
「どちらでもよい。肝心なことは、君が龍に肩を並べる強さを持っているということだ。どうだ?今すぐ俺の部下にならんか?」
トゥワは思いもかけない提案に面食らった。
「御戯れを、殿下。わざわざこんな辺境の若輩者を召さなくとも、帝都には優秀な人材が掃いて捨てるほどおりましょう。」
「俺は下らない冗談など言うために学生に会いに来るほど暇ではない。二度は尋ねないぞ。」
ルーカスの目は笑っていない。トゥワは返事に苦しんだ。ここまで言われて断ったら生きて帰れる保証がない。しかし、二つ返事でこの提案を受けられる身の上ではなかった。トゥワは心の中で聖神に祈りながら言った。
「身に余るほど名誉な提案では御座いますが、お断りさせて頂きます。私は卒業後、ミオネラの修道院で生涯を送りたいと思っております。本当でしたらもっと早くから修道生活を送りたいと思っていたほどです。」
ルーカスは長い指で神経質そうにテーブルを叩いている。気まずい沈黙が流れた。
「…もったいない。俺にそれほどの力があれば、ただ神に救いを祈って日々を浪費するのではなく、実際に人々を救えるだろうに。」
「個人の力でもたらされる救いには限界が御座います。人々の心が変わり、自ら理想の世をなしていくようになってこそ、真の救いがなされるのではありませんか?」
トゥワは反論してから、言い過ぎたと思って蒼ざめた。ルーカスは嘘くさい笑みを崩さない。
「宗教談義は後にして、冷める前に紅茶を飲みなさい。」
ザラが唐突に声を掛けてきた。トゥワは精一杯の愛想笑いをした。
「ありがとうございます。生憎緊張で喉を通りそうにありません。」
「これは有翼の口に合うように濃い味の茶葉を使っている。いいから飲め。」