銀眼に映る悪意(2)
「いや、私は…。」
「無理強いは止そう。他の観光地を巡った方が、トゥワにとっては楽しいはずだよ。僕はいつでも魔界に行きたいから、何だったら二人で行こうか?」
困っているトゥワを見て、アミーが助け舟を出した。
「そうするか。丁度明日は休みだろう。どうだ?」
「明日は予定があるんだ。明後日でどう?」
「ははあ。さては女だな?」
クックーは肘でアミーを小突いた。初めて会ってから、ものの10分しか経っていないとは到底思えない距離の詰め方だ。
「そうだよ。明日はデートなんだ。じゃあ、明後日の夜10時に噴水前で会おう。」
「相手はこの大学にいるのか?吸血鬼か?」
「どうだろうね。君に紹介したら食べられそうだからな。また明後日。」
アミーは悪戯っぽく笑うと、空になったボトルを持って去っていった。
「尾行しようぜ。」
「嫌ですよ。そんな下世話な真似。課題だって終わらせないと。私は絶対に行きませんからね。」
次の日の夕方、全身黒い服を着て、麦わら帽子を被ったクックーは、公園で辺りを落ち着きなく見回していた。その後ろで季節外れの黒いロングコートを羽織り、欠伸をしながら突っ立っているのは、トゥワだった。
「だから臭いで追うなんて無茶だと言ったではありませんか。帰りましょう。」
「まあ待て。こっちだ。」
トゥワは我ながら馬鹿なことに付き合ったものだと思いながら、一人で浮かれているクックーについていった。クックーはヒトビトの集まる広間で立ち止まった。周囲には美味しそうな匂いを漂わせている屋台やキラキラと輝くアクセサリーの並べられた出店が立ち並んでいる。
「いた。」
トゥワはクックーの視線の先を追った。アミーはあまりに周囲の人々に溶け込んでおり、なかなか見つからなかったが、しばらく探すと見覚えのある特徴が目についた。茶色の帽子の下に藤色の髪が覗いており、見覚えのある丸眼鏡の奥には銀色の瞳が輝いている。アミーはシンプルながら高級そうな服に身を包んでいる。
「エルフか。なかなか美人じゃねえか。」
クックーはアミーの隣にいる女性を見ながら言った。金色のサラサラとしたロングヘアに長い睫毛の吸い込まれそうなほど黒い目、すらっとした長身で、しなやかな体つきだ。耳は長く、先が尖っている。背中には何か大きな細長いものを背負っている。彼女の着ている白いワンピースはあまり高価な物に見えなかった。
「これ以上近付くのは危険そうだな。盗み聞きできそうな魔法は使えないか?」
「使いません。」
トゥワはつっけんどんに言った。二人がアミーたちを尾行し続けると、女性にアクセサリーを買ったり、食べ物を買ったりしているのが見えた。トゥワは飽きてきた。
「もう充分でしょう。帰りましょうよ。」
「まだ何も始まっていないじゃねえか。これから面白くなるところだ。」
トゥワは大欠伸をした。アミーたちが動き出した。広場を後にしてどこかに出掛けるようだ。クックーとトゥワは気配を殺してこっそりついていく。10分も歩くとヒトのいない野原に辿り着いた。足元で小さな花が光っている。星彩花というこの花々は、夜になると青白く光る。ミオネラ王国にも自生するくらい分布域が広い、ごくありふれた花だ。
「ようやく二人きりになったね。」
トゥワとクックーは近くの藪に潜んだ。周囲が静かだから、クックーの耳には微かに声が聞こえる。エルフはウインクしてから言った。
「そうね。周りには誰もいないみたい。眼鏡を外して、アム。」




