銀眼に映る悪意(1)
【主な登場人物】
・トゥワ・エンライト…本作の主人公。有翼でワンド大学の学生。ミオネラ王国の第二王子である。精神系魔法である支配魔法、風魔法が得意。
・アミー・コート…トゥワと同室の学生。セフタ公国の伯爵家の吸血鬼。魔法の実技は苦手だが、理論は熟知している。
・クックー・ディフォンス…ルー・ガルーでワンド大学の学生。ソワレ王国の子爵の息子。身体強化魔法が得意。
・リェナ・アーク…トゥワの従者。三眼で、ミオネラ王国の出身。
授業が始まり数週間が過ぎた。トゥワは学校生活に大分慣れてきた。トゥワは学生食堂で夕食をアミーと食べようとしていた。アミーがヒトの血にカルダモンを大量に混ぜた飲み物をテーブルに置くと、強烈な血の臭いが漂ってくる。トゥワは揚げた餅に大量の蜜をかけたものを二切れ皿に取っているばかりだ。
「よっ、久しぶりだな。」
唐突に声を掛けてきたのは、灰色のごわごわした髪に褐色の眼をぎらつかせた長身の青年だった。手にはステーキが山のように湯気を立てている皿を持っている。トゥワとアミーは互いに顔を見合わせる。
「どなたでしょうか。」
「嗚呼、人型の時に会うのは初めてか。クックー・ディフォンスだよ。」
トゥワは改めてクックーの顔を見た。確かにあの狼が人に化けたらこんな姿になりそうだ。
「もう退院なさったのですね。お見舞いにも行かず失礼しました。」
「止めろ。勝者に見舞われるほど屈辱的なことはないぜ。見舞いになんか来たらぶっ飛ばしていたところだ。」
ゾンの助言に従って良かったと、トゥワは胸を撫で下ろした。
「一緒に食べますか?」
「そっちの優男君も良いのなら。」
「アミー・コートと言います。僕は気にしませんが…。」
クックーはトゥワの隣に座った。早速クックーが肉に齧り付くと、トゥワは手を組んで目を閉じ、祈り始めた。クックーは面白そうにその様子を見ている。
「面白い風習だな。出身はどこだと言った?」
「ミオネラ王国です。帝国の威光も届かないような辺境の島国ですよ。クックーさんの出身はソワレ王国と言いましたか?」
アミーが身体を強張らせた。
「そうだ。吸血鬼を迫害したことで有名な、あのソワレのルー・ガルーだ。」
クックーはアミーを見ながら言った。トゥワはクックーとアミーを交互に見た。
「あ…。すみません。配慮が足りませんでした。」
「僕は平気だよ。僕は不死者と言ってもまだ若く、迫害時代を生きたわけでもない。できれば人間関係に政治を持ち込みたくないしね。」
アミーはきっぱりと言った。クックーは八重歯を見せてニヤリと笑った。
「いい心構えだ。仲良くしようぜ。堅苦しい言葉遣いも要らねえよ。」
「私は誰に対しても敬語なので、このままで失礼します。宜しくお願いします。」
「僕はお言葉に甘えようかな。宜しくね。」
自己紹介が一通り済むと、クックーは辺りを見渡して囁いた。
「お近づきの印に、魔界で一杯呑まねえか?二人とも成人しているだろう?」
「魔界?」
トゥワが怪訝そうに呟くと、クックーは信じられないという風に目を瞬いた。
「まさか知らないとは言わせないぜ。」
「ミオネラでは呼び方が違うのかもね。ほら、闘技場、仮面遊技場、カジノ、ヒトを材料とした飲食店、ヒトが原料の素材や魔道具の店、風俗店、その他諸々の頭に『違法』とつく店の数々が軒を連ねる一帯のこと。」
トゥワは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。その表情を見て、アミーは手を叩いた。
「ミオネラは聖教徒の国だから、そんな場所はないのか。」
「少なくとも私の知る限りでは…。今の説明を聞く限り、あまり魅力的だと思えないのですが…。」
トゥワは作り笑いを浮かべながら言った。クックーは巨大な肉の塊を飲み下してから言った。
「折角帝都まで来たんだ。少し四つ足に戻ってみようぜ。」
トゥワにとって聞きなれない言い回しだったが、きっと羽を伸ばすというような意味だろうと納得することにした。トゥワは視線を落とした。




