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黒翼の羽ばたき  作者: 馬之群
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初授業(9)

 背後からスッと現れたのは、背中の肩甲骨の辺りから二筋の血の跡が見える、トゥワの姿をした何かだ。


――家族に殺意を向けられているのが事実だとしても、それには原因がある。血が呪われていても、魔力が強大だとしても、それは家族を殺す決定的な理由にはなり得ない。特にクァリア・エンライトやツェラ・エンライトのような信仰の篤いものにとっては。トゥワ・エンライト、自分の今までの行動を振り返ってみろ。


 トゥワは耳を強く塞ぎ、目を固く瞑って小さくうずくまった。責めるような声と冷たい目は消えなかった。


――散々好き勝手に生きてきて、彼らを顧みることもなかった。助けられる力があるのに傍観したことも一度や二度ではない。家族なのに何で殺そうとするのか、だって?笑わせてくれる。自分から家族ではなくなっていっただけだろう。そのくせ被害者面して彼らを殺めるのか。


「…私はそんなことはしない。」


―本当に?


「本当だよ!当り前じゃないか!」


―どうして?


「…人道に(もと)るだろう。神がお赦しにならない。」


 トゥワの耳に嫌な笑い声が高々と響いた。


―神は、トゥワ・エンライトがこの世に生まれることさえ赦してはくれなかったのに、今更何を言う。


――仕方ない。トゥワ・エンライトは偽善者だから。聖神の教えを守っている風を装って、ヒトに敬意を払い、争いごとは極力避け、己の危険も顧みず自分の意思でヒト助けをする。そう思わせたいだけだ。内心はどす黒い殺意と猜疑心に塗れて全て壊してしまいたくても、全てを見下していても、表向きは笑っていればいい。


 黒翼のトゥワと翼を落とされたトゥワは交互に語り掛けてくる。


――そんな醜悪な心を隠して神の名を口にしても、神を穢すだけだ。悍ましい。


―どうせ神の前に立つ資格がないなら、神から見放されるような汚らわしい存在なら、何を気にする必要がある?この翼に少しくらい血が掛かっても、黒がそれ以上染まるものか。壊してしまおう。全てを。


――無理だ。偽善者にはそんな大それたことはできない。自死する方がよほど楽だろう。それでも良いじゃないか。どの道この先もトゥワ・エンライトは、いつか化けの皮が剥がれて嫌悪と好奇の目に晒されながら処刑される恐怖に怯えながら、誰からも愛されずに生きていくだけの生涯を送るだけだ。今終わっても惜しむような命ではない。


―馬鹿らしい。どうして時代錯誤の掟に縛られ、その気になればすぐにでも踏み潰せるような奴らのために死んでやらなくちゃいけない?殺される前に殺してしまえ。


「私だって殺したいさ!」


 ならどうして今までそうして来なかったのか、それもトゥワにはよく分かっていた。


「神に見放され、家族に憎まれ、私まで自分を諦めたら…。本当に生きてきた意味がなくなるじゃないか。私は死ぬまでヒトでありたい…。これが私に残された最後のプライドだ!」


 トゥワは涙声で叫んだ。また目を閉じ、耳を塞いでうずくまる。もう五月蠅い声はしなくなった。


「私は何も考えていない。何も気付いていないし、何も感じない。これはただの幻聴で、何の意味もない。私は明日も普段通り平凡な日々を送るだけだ。何もなかったのだから。」


 しばらくして、トゥワは目を開けた。立ち上がり、乱暴に目を擦って、教室を後にした。教室を出てすぐに誰かにぶつかったが、立ち止まりもせず足早に去っていった。

【家族構成と家族のことをどう思っているか】


1.トゥワ・エンライト

父、母(死亡)、おば、兄、姉

※これは表向きの家族構成である。

→全員、自分のことを殺したいけど殺せないことは知っている。トゥワ自身も家族を殺したいが、殺さない。


2.アミー・コート

父(アミーを吸血鬼にした存在という意味での父)

→まともに顔を見ることもできないほど恐ろしい。


3.アレッタ・エクルー

父(アレッタが天使として生まれるよう、祝福を授けた存在という意味での父)、ルーカス

→いつ自分の命を狙うか分からない敵。


4.ゾン・ターク

父、母、婚約者(死亡)

→心底軽蔑している。

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