初授業(6)
次の日は風の実技で始まった。教室には両端に等間隔で台が並んでおり、演台の上には無数の骨組みや帆が複雑に組み合わさった物体が置かれている。その横には透明感のある女性が立っている。ウィンドワードだ。ただ、存在感のないウィンドワードより、学生の視線はアレッタや謎の物体に集中している。
「風魔法は繊細な操作性が求められる魔法です。皆様には、バディを組んで簡単なキャッチボールをして頂きますわ。まずはバディを組んで下さいな。」
トゥワは困った。周りのヒトに目で訴えようとするが、避けられてしまう。流石に風魔法を使うヒトはトゥワのことを認知しているようだ。
「私と組まないか?」
トゥワに話しかけてきたのはアレッタだった。お断りしますと言えるはずもなく、トゥワはアレッタと組むことになった。
「本日のお題は単純ですの。ストランドビーストを相手の側の台に運ぶだけですわ。難易度ごとに分けてあるので、バディと相談して選んで下さいな。それでは、どうぞ。」
「最高難度のものを持ってきますね。」
アレッタからの返事はなかったが、トゥワは最高難度のものをいくつも持ってきた。トゥワは自分の隣にある台にストランドビーストを置いた。トゥワは動かそうとしたが、細やかに風量や風向を調整しないとバランスが崩れる。トゥワが少し格闘している間に、周囲からストランドビーストが落ちる音、壁に当たる音などが聞こえてきた。
「先生、周囲の音が気になって集中出来ないので、遮音魔法を使っても良いですか。」
「ええ。構いませんよ。」
アレッタはトゥワと自分を周囲から隔絶するように遮音魔法を掛けた。トゥワはコツを掴み、アレッタの傍の台に3つのストランドビーストを移動させた。
「話したいことがある。私の兄上がお忍びで会いに来たそうだな?」
トゥワはアレッタがこれを言うために近付いてきたのだろうと思いながら返事した。
「ええ。」
「何の用だった?」
「私が龍を退けた件について、探りを入れようとしたのではないかと思います。部下にならないかとか何とか仰っていました。体調不良で途中退席してしまいましたが。」
アレッタはストランドビーストをトゥワの所に運んだ。
「君は何と答えた?」
「お断りしました。」
アレッタは一瞬バランスを崩したが、すぐに持ち直してトゥワの隣の台にストランドビーストを置いた。
「どうして?」
「修道院に入りたいから、と言ったら真剣に食い下がる風でもありませんでした。今になって思えば、私の反応を見たかっただけなのでしょうね。」
「龍を倒した件については、私も君の仕業だと知っている。公的にはミオネラの軍と帝国軍が協力して倒したことにされているが、実際には君一人で成し遂げたのだと。きっと本当のことなのだろうな。詳しく聞かせてくれ。」
トゥワは少し考え込んだ。
「時間を稼いだらご自分で帰りましたよ、あの方は。帝国軍が迫っていることに気付いたのでしょうね。私の手柄とは言えないと思います。ルーカス殿下にも申し上げましたが。」
「私が知りたいのはその前だ。どうやって地竜と戦ったのか、それが問題だ。」
アレッタはなおも詰めてくる。
「地上に出た時点でかなり弱っているようだったので、ソーマで魔力を底上げして最大火力で攻撃し続けただけです。特に面白い話もありませんよ。」
「気になるのは、どうして独りで龍に向かっていったのかということだ。周囲からヒトを遠ざけた理由は何だ?」
トゥワは冷や汗を掻いた。鋭い。
「こう言っては何ですが、足手まといですから。ミオネラ王国のヒトビトは魔法の技能が低いのです。龍に会っても戦うどころか消し炭になるだけです。」
「遠方からの援護すらなかったのは何故だ?」
「私に当たる可能性もありましたから。」
アレッタはなおも何か言い掛けたが、ウィンドワードが外から合図してきた。アレッタは遮音魔法を解いた。
「今日の授業は終わりです。また来週お会いしましょう。」
「ありがとうございました。」
トゥワとアレッタは言った。
「続きはまた後で。」
「はい。さようなら、殿下。」
トゥワはアレッタの後ろ姿を、拳を握り締めながら見送った。




