初授業(5)
翌日の最初の授業は錬成の実技だった。何故か教室には椅子や机が一つもなかった。トゥワは注意深く学生を観察していた。すると、橙色の髪をした、がっしりした体型のヒトがトゥワに近付いてきた。
「初めまして。この間はオレの親友が失礼なことをしたね。」
「えっと…。」
トゥワは目があるのかないのか分からないような顔を見上げながら返事に困っていた。青年はトゥワの目線の高さに屈んだ。
「オレはゾン・ターク。ルー・ガルーだよ。クックーとは腐れ縁なんだ。悪い奴ではないけど、好戦的な性格でね。オレではあいつに勝てなかったから、あいつが倒れた時にはスカッとしたよ。」
「嗚呼、クックーさんのご友人でしたか。その後、クックーさんはお元気ですか?」
「くたばっちゃいないようだよ。残念なことにね。」
トゥワは微笑んだ。
「今度お見舞いに行きますね。」
「やめときなよ。暴れられるのがオチだ。」
「授業を始めるぞ!」
叫んだのは若いドワーフだ。トゥワの半分くらいしかない身長で、まだ30cmほどしかない顎鬚は妙に光沢がある。
「先生!机と椅子がありません。」
ネコ科の獣人っぽい学生が言った。先生は顎鬚を撫でながら答えた。
「それが本日の課題だ。各自自分の机と椅子を錬成して作ってもらう。できなかったら、この授業はずっと空気椅子だ。」
教室内に動揺が走った。
「うわー、なかなかエグい課題だねえ。」
「空気椅子にはならないでしょうが、今期持つか怪しいです。途中で壊れるかも…。」
先生は学生たちを静めて、詳しいやり方を説明した。名前はゴーティーというらしい。
「アルケマイズ!」
ゴーティーの呪文に従って、ロココ調の椅子と机が出現すると、学生は拍手を送った。
「このように作ること。何度も失敗されると教室が机で埋まるから、3回以内に成功させるように。何か質問は?」
誰も質問しないようだった。
「よし。始め!」
学生は皆、机と椅子をイメージするところから始めているようで、目を閉じたり、紙に何か描いたりしている。トゥワは机と椅子をイメージしながら、ふと気になったことをゾンに尋ねた。
「そう言えば、ルー・ガルーは夜行性では?どうして昼間の部に出ているのですか?」
「世の中、昼行性が得をするようにできているからねえ。夜行性の中にも昼間に起きるよう矯正するヒトはいるものさ。」
ゾンは椅子を出現させた。黒い革張りのソファのようだ。ゾンは早速腰を下ろしたが、クッション部分が派手に破れた。失敗だ。
「外見より素材の耐久性に気を配れ。」
ゴーティーがちょこちょこと走りながらゾンに声を掛け、走り去っていった。
「アルケマイズ。」
トゥワは手を伸ばして言った。木製のシンプルな椅子が出現した。トゥワが座ると高さも丁度良く、壊れそうな様子もない。及第点というところだろう。
「そつなくこなすなあ。」
ゾンは革張りのソファをもう一度出現させた。今度は成功したようだ。その後、トゥワは木製のシンプルな机を、ゾンは引き出しがいくつもついた机を錬成した。
「何とか全員錬成できたな。こんなものは初歩中の初歩だ。このくらいで音を上げていてはこの先ついてこられんぞ。では、本日はこれまで。」
トゥワが周囲を見渡してみると、歪な椅子や水平とは思えない机が見えた。ゾンやトゥワの机と椅子は悪くないようだ。トゥワはこの中に自分を襲った犯人がいるとは思えなかった。あの時の錬成速度と精度から言うと、この程度の課題でここまで醜態を晒すとは思えない。トゥワが同じ授業を受けているから実力を隠しているとしても、あの実力でここまで失敗するのは逆に難しいはずだ。
「理論でまた会おう。じゃあね。」
「ええ。また来週会いましょう、ゾンさん。」




