狂ったお茶会(2)
「トゥワ・エンライト君かしら?」
そよ風のような声が囁いた。トゥワは襟を正して答えた。
「はい。初めまして。ミオネラ王国から参りました、トゥワ・エンライトです。こちらは私の従者のリェナ・アークです。理事長にお会いしたいのですが、理事長室はどちらでしょうか?」
「丁寧な挨拶をありがとう、トゥワ君。わたくしはウィンドワード。この学校の教員で、ご覧の通りシルフですの。トゥワ君は風魔法の実技を受講なさるでしょうから、きっとまたお会いしますわね。早速理事長室にご案内しますわ。貴方は寮に荷物を置いてからいらっしゃいな。」
リェナは荷物を持って寮に向かい、ウィンドワードとトゥワは理事長室に向かって歩いて行った。道中白い制服の学生とすれ違ったが、あまりトゥワのことを気にしている風でもなかった。ウィンドワードは歩きながら学校を紹介したり、トゥワのことを尋ねたりして、あっという間に理事長室に着いた。
「理事長、トゥワ君です。」
「入りなさい。」
若い女性の声がした。ウィンドワードは扉を開けた。理事長室は本で埋め尽くされ、雑然としていたが、入り口付近の高価そうなソファの周りだけは整理整頓されていた。
「初めまして。ワンド大学へようこそ。理事長のザラ・テーラーです。どうぞ座って。ウィンドワード、貴方はこの子の従者を案内したら下がって良いよ。ご苦労様。」
ザラは桜色の髪を肩まで垂らし、焦げ茶色の小さな目でトゥワを見ながら挨拶した。その頭には水牛のような二本の赤い角が生えており、目の下には赤い鱗が見えた。竜人の特徴だ。トゥワは勧められるままにソファに腰掛けようとして固まった。そこには先客がいたのだ。
亜麻色の髪に緑色の目で端正な顔立ちの少年の背中には純白の鷲の翼のような翼が生えている。絵画から抜け出したような天使がそこにいた。それは辺境の小国に暮らすトゥワさえ、よく知っている姿だった。
「向かいに座れ。」
凛とした声で我に返ったトゥワは翼の生えた少年の向かい側に座った。ザラは紅茶のカップを運ぶと、二人の横にあるソファに腰掛けた。
「どうやら自己紹介は不要そうだが、ルーカス・エクルーだ。オラクル帝国第一皇子の。」
トゥワは口の中が乾くのを感じたが、紅茶に手を伸ばそうとは思えなかった。ルーカスは辺境の王族くらいでは遠くから顔を眺めることすらままならないほど高位の人物であり、護衛もつけずに至近距離で対面するなど考えられないことだった。