初授業(3)
『魔素制御基礎』の教室は一番広い大広間で、先生は皺だらけで歩くのもやっとそうな老女だった。学生の中にはクスクス笑っている者もいる。自己紹介によると彼女はハンディという名の人間で、魔素のコントロールにかけては一流なのだそうだ。ハンディは全員に魔力視のできる眼鏡を渡した。
「魔素の扱いについては説明するより見た方が早い。誰かに実演してもらいましょうかね。一番前の席で堂々と居眠りしている君。前に来なさい。」
ハンディに指名され、ピクシーと思われる、手のひらサイズで翅のある女子が前に出てきた。
「得意魔法は?」
「幻術です。」
「良いでしょう。今使ってみなさい。他の人は眼鏡を掛けて魔素の流れをよく見るように。」
ピクシーが空中に文字を書くように飛び回ると、翅から鱗粉のような粉が舞うのが見えた。その粉は空中で集まり、純白のユニコーンの姿を取った。その周囲には霧が出ているかのように大量の粉が漂っている。
「もう戻って良いですよ。皆さん、彼女に拍手。」
トゥワはパチパチと手を叩いた。周囲の学生もまばらに拍手している。ユニコーンの姿は崩れ、霧散して空気中に溶け込んでいった。
「さて、今彼女が魔法を使った際に、ユニコーンの周囲に漂う魔素が見えたかと思います。魔素の魔法変換率は40%といったところかねぇ。まずまずですね。皆さんにはこの授業を通じて、魔法変換率を10%ほど高めてもらいますよ。」
トゥワは固まった。ハンディが何を言っているのか全く分からない。周囲の反応を見るに、分かっていないのは自分だけのようだ。
「初回だから、皆さんの変換率をざっと見て終わりにしましょう。一人ずつ前に来て、得意な魔法を一つ実演したら帰っていいよ。成績に含まないから、早い者勝ちでいらっしゃい。」
列をなす学生たちをよそに、トゥワはなかなか席を立とうとはしなかった。隣で立ち上がって列に並ぼうとしていたアミーが戻ってくる。
「どうしたの?」
「いえ、私は最後の方に並びたくて…。」
トゥワは愛想笑いをした。アミーはトゥワの隣に座った。
「僕もそうしようかな。魔法は下手だから見られたくないしね。」
学生たちは次々と魔法を披露して帰っていく。トゥワはその様子を必死に観察していた。どうやら、放出する魔素の半分を魔法に変換するのが平均らしい。40%くらいになると『まずまず』、60%くらいだと『悪くない』と評されている。しかし、それが分かったところで今更どうにもできない。