初授業(1)
【主な登場人物】
・トゥワ・エンライト…本作の主人公。有翼でワンド大学の学生。ミオネラ王国の第二王子である。精神系魔法である支配魔法、風魔法が得意。
・アミー・コート…トゥワと同室の学生。セフタ公国の伯爵家の吸血鬼。魔法の実技は苦手だが、理論は熟知している。
・アレッタ・エクルー…ワンド大学の学生。オラクル帝国の第一皇女で、天使。回復魔法と風魔法が得意。入試では実技も理論も2位で総合では首席である。
トゥワはアミーと一緒に最初の授業、『魔法学基礎』に向かっていた。教室は百人くらい入る大きさで、二人は真ん中より少し前に並んで座った。前には小さい種族が、後ろには大きい種族が座り、左右には精霊など水、火、風などを発していたりそれらに包まれていたりする種族がいる。すっかり陽が落ちているのに教室内は薄暗く、トゥワにはヒトの様子までは見えなかった。
「時間になったから始めようかね。」
そう言ってコツコツと姿を現したのは、立派な顎鬚を生やした葦毛のケンタウロスだった。フーフと名乗ったケンタウロスは先生だということだった。
「諸君、魔法はどうやって使うものかね?つまり、何を素にして、ということだが。」
いきなりの質問に対し、辺りはざわめきながらも誰も答えなかった。質問自体はかなり単純で、答えられないはずはないのだが。
「水中にいるお嬢さんにも儂の声は届いているだろうね?答えてみなさい。」
教室の左端で身体をすっぽりと覆う水球に入っている、人魚の女性が水中で糸電話のような装置を咥えた。
「魔素、ですか?」
「その通り。我々が呼吸しているこの空気中には平均で5%の魔素が含まれておる。まあ、地域差はあるが。水中だともう少し低かろう。これを諸君らは呼吸により取り込み、魔法を使う時には体外に放出して魔法へと変換しているわけだな。」
フーフは板書したが、暗すぎて昼行性種族にはよく見えなかった。アミーはしっかりノートを取った。
「魔素は魔法に変換された後、再び魔素に戻ることはない。それでは、ヒトが魔法を使い続けているのに、魔素が枯渇しないのは何故かね?」
フーフは何人か指名したが、誰も答えられなかった。
「はぁ。このくらいは既に知っておるものと思っていたがね。この後が本題だよ。誰か言える者は?」
アミーが手を挙げた。その他にも何人か手を挙げている。
「藤色の髪の君。」
「魔石が光で分解され続け、魔素になっているからです。」
「そうだ。儂らは魔道具によく魔石を使うが、純度の高い魔石は日の当たるところでは採掘されない。だからこそヒトビトは身の危険も顧みず、ダンジョンに潜って魔石を採掘したり、魔物を狩って、その体内にある魔石を持ち帰ったりするのだ。」
フーフはコツコツと学生たちの方に歩いて行き、何かを渡して後ろに回すよう促した。
「今、魔石を回している。これはダンジョンの5層で取れた石だ。地表付近で見られるものと比べて表面がきめ細やかで光沢があることが分かるだろう。」
「それで部屋を暗くしているのか。」
アミーが独り言のように呟いた。