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黒翼の羽ばたき  作者: 馬之群
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入学と決闘(6)

「魔法は3回まで。勝利条件は相手の敗北宣言、もしくは戦闘不能ではどうです?」


 クックーは口角を上げて唸った。恐らく笑っている。


「3回?ルー・ガルーの特性を知らないのか?」

「まあ、多少は知っているつもりです。身体強化がお得意なのでしょう。」


 身体強化魔法は風魔法のような単発の魔法と異なり、一度発動させればある程度持続する。つまり、魔法の回数制限をかけることは、トゥワにとって一方的に不利な条件なのだ。野次馬もひそひそと囁いている。


「いくら入試の成績が良くてもそれは無理だろう。フルムーンのルー・ガルーに魔法3回で勝つなんて。」

「ちょっと生意気だよな。田舎の出のようだし、夜郎自大というやつだろうさ。化けの皮が剥がれる所を見るのも面白そうだ。」


 トゥワはリェナにそっと目配せした。リェナは呆れた。まさか、魔法は3回という約束を守るから良いだろうと言いたいのだろうか?フルムーンのルー・ガルーの決闘を受けるなら、もはや魔法の回数などどうでもいい。確実に身体への負担が大きいだろう。


「ディフォンス様、応援しています!」

「そんなチビ、叩き潰して下さいな!」


 黄色い声援に応えてクックーは長い爪の手を振ってみせた。どうやら女性受けはいいらしい。一方、トゥワに対する声はと言うと、リェナの小さな声が辛うじて聞こえるばかりだった。


「トゥワ殿下、無理に勝とうとなさらないで下さいね。早々に敗北宣言をなさっても良いのですよ。」


 トゥワはあまりまともに決闘するつもりがなかったが、あまりにアウェーな状況に対して沸々と闘志が湧き上がってきた。


「手は抜くなよ。」

「そちらこそ、重傷を負って授業に支障をきたしても怨まないで下さいね。」


 クックーが笑うと真っ赤な舌と鋭い牙が全て露わになった。アレッタがトゥワとクックーの間に立った。


「立会人は私が務めよう。双方準備はいいか?」


 トゥワは深呼吸して目を閉じた。


「始め!」


「エアブレード!」


 トゥワが目を開けるなり叫ぶと、野次馬が吹き飛ばされそうになるほどの暴風が無数の刃となってクックーに押し寄せてきた。野次馬は悲鳴とも喚声ともつかない声を上げる。風はほどなく収まり、クックーは体のあちこちに裂傷を負っていたが、急所はしっかり守ってまだ戦える様子だった。


「…思いの外頑丈ですね。」


 トゥワは素っ気なく言った。これで使える魔法はあと2つになった。


「こわ…。」

「俺だったら、あの一撃で既にバラバラだわ。」


 野次馬は少し下がったようだ。クックーは余裕そうに笑っている。


「次はこちらからだ!」


 クックーは目にも留まらない速さでトゥワに拳を突き出してきた。トゥワは初撃を紙一重で躱す。当たっていないのに、風圧だけでトゥワはよろめいた。掠っただけで内臓がボロボロになりそうだ。クックーはなおも鋭い拳を繰り出している。


「アップドラフト!」


 クックーの拳は地表から吹き上げる激しい風によって阻まれた。それはトゥワの周囲を完全に囲んでおり、クックーは近付くこともできなかった。しばらく経っても風の勢いは一向に衰える気配がなかった。風魔法にしては珍しく、持続する魔法のようだ。


「卑怯だぞ!出てこい!」

「嫌です。真正面から打ち合うとお思いでしたか。身体強化魔法の持続時間は、確か一時間ほどでしたね。」


 クックーは咆哮を上げた。少し後ろに下がったかと思うと、助走をつけて風の壁に向かって飛び上がり、その勢いを利用して身体を捻じりながら右腕を中に伸ばした。トゥワは後ろに下がるが間に合わず、肩をがっしりと掴まれた。クックーは力強くトゥワを引き寄せ、風の壁の中に入ってきた。トゥワは乱暴に引き倒され、風の壁の中で尻餅をついた。


「終わりだ。トワ。」


 クックーはトゥワに向かって至近距離で拳を振り上げた。

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