入学と決闘(5)
入学式が終わり、トゥワは人ごみに流されるように大広間を出て外に出た。木々の間から昇り始めた満月が顔を覗かせている。
「あんた、実技一位のやつか?」
後ろから声を掛けられ、トゥワは振り向いた。そこにはトゥワの身長の1.5倍はあろうかという体躯で、灰色の毛並みに褐色の眼をぎらつかせた二足歩行の狼が制服を着ていた。
「ええ。何か御用ですか?」
狼は牙をぎらつかせてニヤリと笑った。
「決闘を申し込みたい。」
「…え?」
トゥワが困惑していると、周りの人が面白そうだとばかりに立ち止まり始めた。
「どういうことですか?」
「言ったとおりだ。俺はあんたと決闘したい。」
「どうしてですか。」
狼は微かに唸った。
「単純に戦ってみたいから、では駄目か?」
「私は戦いたくないもので。そもそも争いごとは極力避けたいのです。明確な理由がないのなら、失礼します。」
トゥワが立ち去ろうとすると、狼は行く手を塞いできた。
「いきなり決闘を申し込む失礼さは承知の上だ。ただ、今日が一番俺にとって都合が良かったのだ。丁度いい月齢だからな。せめて自己紹介くらいは聞いてくれ。」
トゥワは足を止めた。
「俺は、クックー・ディフォンス。オラクル帝国内の自治国家、ソワレ王国の子爵の息子で、ルー・ガルーだ。」
トゥワは見た目に反して可愛らしい名前だと思ったが、黙っていた。
「ミオネラ王国の王子、トゥワ・エンライトです。有翼です。」
いつの間にか野次馬が増えている。その中にはリェナの姿もあった。
「何?ツワ…トワ?」
狼の舌ではミオネラ語の発音を再現できない。トゥワは微笑んだ。
「トワで良いですよ。私は決闘の流儀も知らないので、また後にして下さい。」
「それなら私が教えよう。」
その言葉で野次馬が道を開けた。悠々と歩いてきたのはアレッタだった。トゥワは会釈した。
「魔法決闘は申し込まれた方にルールの決定権がある。勝利条件や使用する魔法の種類などだ。それに対して決闘を申し込んだ側が同意すれば、決闘が成立する。何か質問は?」
「いいえ。ありがとうございます、殿下。」
トゥワは益々困った。野次馬は増える一方だし、アレッタにここまで説明させて、やはり断るというわけにもいかない雰囲気だ。リェナは殺気が籠もった視線をトゥワに投げ掛けているが、トゥワはもう断れないと観念してしまった。