入学と決闘(4)
それから数日後、入学式のある日の昼に、リェナがトゥワのもとを訪れた。眠っているアミーを放っておいて、トゥワの背中の傷の治り具合を調べたリェナは告げた。
「入学式くらいなら大丈夫でしょう。」
「本当ですか?」
トゥワは顔を綻ばせた。
「ただし、魔法は多くても3回までに留めて下さい。それも30%くらいの力に加減して下さい。」
「任せて下さい。まさか入学式から魔法を使わせるはずがありませんから。」
夕方に差し掛かる頃、トゥワはアミーを起こして大広間に向かった。中は様々な種族でごった返していた。大きなもの、小さなもの、熱いもの、冷たいもの、硬いもの、柔らかいもの、全てが一堂に会す光景は見応えがあった。
ただ、入学式そのものは退屈なもので、トゥワを含む多くの学生は、ぼーっと時が過ぎるのを待っていた。
「挨拶の辞。新入生代表、アレッタ・エクルー。」
その途端、寝ぼけ眼を瞬いて、壇上に目を向けたものが多かった。亜麻色の髪を優雅に結い上げた端正な顔の少女は、純白の鷲のような翼に彩られ、美しいながらも鋭い碧眼を聴衆に向け、少しの間無言で教壇に立っていたが、やがて張りのある声で呼びかけた。
「皆さま、この大学に入学したのは何のためですか?」
理事長から強制ともとれる推薦状が届いたからと、トゥワは内心思った。
「代々この大学を出た家柄だから?友達が通うから?家から出て羽目を外すため?それが悪いとは言いませんが、これほど優秀な教授陣に囲まれ、一流の教育を受けられるのに、それでは勿体ない。」
アレッタの言葉は精神系の魔法を乗せているのではないかと疑うほど、聴衆にスッと響いていた。
「そうは言っても、卒業したら爵位を継ぐだけなのに、必死に勉強するなんて馬鹿らしいと言う方もいるでしょう。しかし、本当に爵位を継げば安泰だと言えるでしょうか?」
アレッタは一呼吸置いた。聴衆は完全にアレッタの次の言葉を待っている。
「…この世界には様々な脅威があります。地下に巣食う魔物たち、飢饉や戦争、邪神とその信奉者…。挙げていけばきりがありません。そして、その危険は年々身近になっている。皆さまの領地に何かあった時、対処するのは誰です?魔法の使い方すら教わったこともない民でしょうか、高度な教育を受け、領地を守る責を負った皆さまでしょうか。一度胸に手を当てて考えて頂きたい。」
聖教徒のような考え方だと思いながら、トゥワはアレッタの言葉に聞き惚れていた。
「私は確信しております。皆さま一人一人が気高くて強い、真の意味の貴族となってこの学び舎を後にすることができると。共に切磋琢磨して学び合えることを期待しております。最後に、このような式を準備して下さいました先生方や、今まで支えてくれた家族に感謝の意を表して、挨拶の言葉と代えさせて頂きたいと思います。」
割れんばかりの拍手が巻き起こった。トゥワも惜しみない拍手を送った。アレッタは指先まで優雅な所作で、堂々と降壇していった。