6:住み心地が良いように部屋を改装してみます
朝食を食べ終えてから私はぐるりと部屋を見回した。
鮮血を思わせるどぎつい赤の壁に囲まれた一室。そこにふよふよ浮かんでいた魔王陛下の使い魔を、「これから昼寝させていただきますので」と言って追い出すと、早速作業に手をつける。
鍵を作ったとしても使い魔はこの部屋に入って来るかも知れない。
しかし、それならばこの部屋全体に結界を張ってしまえば良いのではないかと思いついたのだ。
他の者が入って来られないようにしてから、本格的に模様替えを始めればいいだろう。
――私が光魔法でできることは、人体の治癒、毒や呪いなど悪しきものの浄化、そして光魔法を固形化して操るものの三つ。
この三つ目の魔法を応用すれば、簡単なものではあるが結界を作ることができるのである。
結界にはかなりの魔力が必要だが、幸いここしばらく使っていないため大きめの結界を張れる程度の力はあった。
この島にやって来てから魔法を使わなくて良かった。例え、あまりにも怖くて魔法を使うという考えに至らなかったというあまりにも情けない理由からであったとしても。
魔法陣を描き、結界を立ち上げる。
そしてその端々に魔法で光を灯すと、小さく呪文を唱えた。
体からごっそり体力が抜けていき、軽く眩暈がして意識が遠くなる。
それと同時に私は見て確認した。部屋中が光り輝き、丸ごと結界と化したことを。
意識をどうにか保った私は、満足して呟く。
「うまく……いきましたね」
「ベリンダ様、何をしていらっしゃるのですか」
外から使い魔の厳しい声がする。
おそらく光魔法を感知し、何事かと騒いでいるのだろう。
それに取り合いたくはないのだが、部屋の改装のためにどうしても外から材料を取ってくる必要がある。
仕方なく立ち上がり、私は一旦部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
使い魔と一悶着どころではない言い合いになりつつも、なんとか逃げ切ることができた。
お飾りだとしても魔王陛下の花嫁だったからギリギリ許されたが、命を奪いかねない勢いでの叱責だったので、かなり身が竦む思いをした。しばらく外に出たくない。
部屋に生還した私は、かき集めた材料でまずは部屋の塗り替えを始めていた。
今頃使い魔が魔王陛下に私の行いを報告していることだろう。魔王陛下は、大層お冠かも知れない。これから一切食事抜きなんてことになったら夜中に忍んでどこにあるかも知らない厨房に行くしかないだろうか、なんて考えながら私は、作業を着々と進めていく。
部屋の壁面と床、天井などをどぎつい赤から目に優しい薄青に変えた。
それだけではなく、ベッドの配置を変えたり、机を新たに置いたり。模様替えは半日ほど続き、その結果、私好みの落ち着いて過ごせる空間が出来上がった。
我ながら上出来である。ここなら何日いても快適に違いない。
ああ疲れた。もうこのまま眠ってしまおう。
私にはこの場所でやるべきことなど一つもない。これが噂に聞く――変わり者の令嬢たちが憧れていた――引きこもり生活というものか。
確かに引きこもり生活はなかなかに良さそうだ。当時は首を傾げていたものだが、今なら引きこもり希望者たちの気持ちがよくわかる。
力を抜いてだらけ切った私は、柔らかなベッドに身を沈めた。
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