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4:魔王陛下が部屋にやって来ましたが……

 ノックの音を聞いて瞼を開けると、視界に真っ先に飛び込んできたのは黄金のやたら大きなシャンデリアと真っ赤な天井だった。


 慣れ親しんだ自室でも、監禁されていた生贄用の部屋のものとも違う。ぼんやりする頭を揺すり起こし、数秒かけてようやくここが魔王城であることを思い出した。


 その時ちょうど、もう一度控えめなノック音が響いた。

 どうやら誰か、来ているらしい。私を起こしにきたのだろうか。寝足りない感じがするがもう朝なのかも知れない。


 ベッドから身を起こした私は扉の外の人物へ声をかけた。


「……どなたですか?」


「俺だ。お前の夫だ」


 夫。

 その言葉を聞いて、背筋がぞわりとなった。


 私の夫。それはつまり結婚式を挙げて夫婦になったばかりの魔王陛下に他ならない。だが、魔王陛下がどうして私の部屋に?

 ……決まっている。とうとう食らいに来たのだ。部屋が別々だからと思っていたが、やはり私を狙っていたのだ。

 ――私の、体を。


「私、夫婦の営みをするつもりはないのですが……」


 しかし私の言葉の途中で、扉が開いてしまう。

 そういえば鍵がなかったな、とここに来てようやく気がついた。そうか。魔王陛下が勝手に入ってこられるようになっていたのか。


 直後、部屋の戸口に現れた魔王陛下は、冷たい瞳で私をまっすぐ睨みつけてきた。

 殺されるかも知れないということは充分に理解していたつもりだ。が、いざその時が迫ると冷や汗をかかずにはいられない。


 寝間着に用意されていたネグリジェが冷や汗でしっとりと濡れていく。

 しかし私はそれを微塵も顔に出さず、魔王陛下と向き合った。


「いくら表向きは夫婦になったとはいえ、女性の部屋に無断で上がり込んでくるのはいかがなものかと思いますが」


「………………」


「それとも、魔国ではこれが普通のことなのですか?」


 魔王陛下は私から視線を外さぬまま、しばらく押し黙っていた。

 自分でもかなり偉そうな物言いをした自覚はある。これはかなり、私に対して怒っているということなのだろうか、いよいよ堪忍袋が切れて襲いかかってくる? そう身がまえた、その時。


「失礼、した。……帰る」


 魔王陛下は一言だけ言い残して、逃げるように帰っていってしまった。


 帰ってしまったのだ、魔王陛下が。

 私を食べることなく。そして怒り狂うことさえなく。


 理解が追いつかない。

 すごすご帰るくらいなら最初から来るなとか、一体何の用件だったのだろうかとか、追い返してしまってからものすごく気になり始めてしまった。

 というかどうして魔王陛下は引き下がったのかが理解できない。私一人、その気になれば簡単に押し倒せたはずだ。それとも魔王陛下は極度のヘタレなのか? いや、そんなはずはない。彼は魔国の王を務める魔族なのだ。なら、別の思惑があって……?


 色々考えてみるが、なかなか結論に辿り着くことはできない。

 何なら魔王陛下の後を追ってみようかとも思ったが、廊下に出てみてもその時にはもう魔王陛下の姿はどこにも見当たらなくなっていて、諦めた。


 一体、魔王陛下はどちらの意味で私を襲う気だったのだろう。

 もしも性的に襲うつもりであれば、私を放置して抵抗心をなくし、それから奴隷のように扱うことに決めたのかも知れない。もしくは食的な意味で襲う場合も一緒で、弱らせてから食べた方がいいというつもりなのか。

 ……それとも、本当にお飾りの妻としてこの城に住まわせ続ける気なのかも知れない。


 どちらにせよ、


「もっとはっきり言ってくださればよろしいのに」


 色気ムンムンのサキュバスたちのことしか頭にないのであろう魔王陛下は、私を娶った意味さえろくに教えてくれないのだ。

 そのことに少しばかり腹を立てながら、私はベッドにぼすんと顔を埋めた。

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[一言] 帰るんかい!www
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