【七】男子が女子のどこを見るかっていうと
夏休み最後の日、ハセとクッシーが宿題をうつしにカンヂのところにやってきた。
「シイナこねえのな」
「あいつはおれが個別に見てやってる。お前らとちがって自分の力で問題をといてる」
「なにカンヂ。シイナんちいったんかよ」
「アイツんちスゲーでっけーってホント?」
「アイツさーゼッタイに家にいれてくれねえのな。なあなあ、中どんなだった?」
カンヂは二人の興味をひくなにかを口走ってしまったらしい。
「家は家だろ。どんなかなんておれはしらん」
「これだよ。カンヂはだからダメなんだよ」
ハセは国語のドリルにシャーペン放りだし、天井をあおいだ。
「シイナってなー、六年生なってからゼッタイに水にはいらねーよな」
「水疱瘡だろ」
「ゼッテーちげって。だってアイツ川にもはいらねーもん」
「なー。こないだハセと二人で川で泳がそうってしてみたけど、アイツすんげーイヤがんの。ありえねー」
カンヂがむっとした。
「いやがってること無理にさせようとするなよ」
「アイツさー。なんだと思う? おれ、胸あんじゃねーかって思う」
「胸え? なんだよそれ」
「胸ふくらんでんだって! 女みてーに。アイツだぶだぶの服きてゴマカそーとしてっけど、おれ見たもん。首んトコから胸みえた」
「まじ? ナッカよりもでかい?」
「ナメ、ブラジャーしてるよな」
「そーそーあと女子の方の吉田も」
「ヨッシー胸より腹の方があんじゃねーかって」
「ひで。ボンレスハムかよ」
話題はどんどんキワどいほうへとながれ、二人が変な声で笑う。
無言をつらぬいているが、カンヂの背すじは冷や汗しっとりだ。
ハセはバカだけどクッシーはそうじゃなかった。
顔がでかいぶんだけ中身もつまってるのか、カンヂですら気づいていなかった所もよく見ていた。
ドリルをうつしおえると二人は帰っていった。
夕方になり、カンヂは時間を見はからって弁当二つ手に家をでた。
「カンヂ。あの坊主のところに行くのか」
三和土で靴をはいてるとサイコがやってきた。
「うん」
「あまり深入りしないほうがいい。あいつは不安定すぎる」
カンヂはゆっくり立ちあがってサイコをふりむいた。
「うん。初めて会った時のサイコに似ていると思う」
サイコはびっくりした。
「私はあんなに弱っちくない」
「うーん。でも、なんか似てる。だからおれ行ってくるよ」
カンヂは今度こそ家をでた。
「一丁前いいやがってあのガキ」
サイコが怒りたぎらせ顔を真っ赤にしていたのを、カンヂは知らない。