【四七】最後に一つだけ言わせてもらおう
「ほほう、俄然面白くなってきたじゃないか」
荷台をあちこちに搭載した重装ママチャリにまたがり、サイコが無敵の笑いをうかべる。
「さーちゃ、しっこ」
「おうおう。さあズボンをおろすぞ、まだするな」
サイコは自転車のスタンドをたて、荷台からケンゴをおろし、小便の用意をさせた。
「ねえサイコ姉ちゃーん。カンヂ兄ちゃんなにしてんのー?」
「よく聞くがいいヒデヲ。カンヂはな、たった一人でここにいる全員と戦っているのだ。どうだ? 格好いいだろう」
「うーんとー、うん」
「ヒデヲ、なるならカンヂのような男になれ。そこらにつっ立ってカンヂを見あげているような脳ミソの腐ったド阿呆どもみたいには絶対になるなよ」
「うん」
そんな会話をよそにチヒロは足元のダンゴ虫をいじくっていた。
そのとき教師の一人が校門のサイコに気づく。
「実吉、実吉サイコじゃないか!」
「ええ? サイコって今あの、上でゆってる?」
「うわっ! ほんっとチョー美人じゃん!」
「ずっと学年一位だったっていう、あの人でしょ? ホンモノ? あの子たち、生んだの?」
学校はじまって以来の才女で、まれに見る美人と数々の伝説をのこすサイコは、校門の門柱めがけて赤子の小便を絶賛ふりかけていた。
「いいぞケンゴ。もっと勢いよく校名の文字板にかけてやれ。ははははは! こいつは痛快だ!」
「しー」
「シイナ! そもそもお前はなにごとに対してもガマンが足りない! イヤになるとすぐに逃げだす! 中学の美術部もろくにでていなかったし、高校の水泳も長つづきしなかった! エッシャーだって描きかけでほうりだしてる! 周囲のプレッシャーなんてのは言いわけにならん! プライドが高いから自分の問題をかくそうとする! 行きづまってどうしようもなくなると癇癪をおこす! 俺のことを好きだと言っておいてその口でほっとけだのやっぱりきらうなだの、一貫性がない! そのくせはっきりと物を言わず、俺のさっしが悪いとすねる! お前に俺を非難する資格があるのか!」
シイナはうずくまっている。
蒼白の顔色で、ぶるぶるふるえている。
「いこ、シイナ君。こんなの聞いちゃだめだよ」
同級生の言葉に、シイナはかぶりをふった。
「ううん、ここで聞く。カンヂの言ったこと、全部耳にいれる。一つも聞きのがしたくないの」
シイナはよろめきながら立ちあがり、青空の中にいるカンヂを見あげた。
「シイナ、お前がつらかったのはしっている! ほかのだれよりも俺がしってる! だから俺は、お前に手をかしたことを、まちがいとは思っていない! お前にとってそれが、ときにありがた迷惑だったこともあるのだろう! しかし、助力をこばむにも筋ってものがある! 人をバカにして遠ざけるようなやりくちを、俺は絶対に、絶対に、絶対にみとめない! お前は俺にきちんと筋をとおすべきだ! それがまちがっているというのなら、いつでも言いにこい! 俺はにげもかくれもせん!」
カンヂは息をととのえた。
生徒たちはどよめいている。
「最後に!!! 一つだけ言わせてもらおう!!! シイナ!!」
カンヂは思いっきり息をすった。
その声はこの日一番でっかくひびき、学校にいた者すべてにとどいた。
俺もお前が好きだ。
以上。
一年進学クラス、
実吉カンヂ。
ご清聴ありがとうございました。
下界は大さわぎになっていた。
笑いだすもの、嬌声をあげるもの、歓声にわくもの。
「君、すごかったねー」
軽薄そうな方のリポーターが言った。
「今の気分って、どう?」
幸薄そうな方のリポーターがきいた。
カンヂの背中に、口笛と拍手と喝采がチクチクあたる。
「少しすっきりしました」
カンヂは相手をまっすぐ見て、けろっとほざいた。
次回最終回。




