【四六】青空シャウト
シイナがカンヂを凝視する。
アイツ、なに言いだすつもりだ。
まわりの人間がいっせいにシイナを見た。
「シイナはこの体質で今までおおくの苦労をしてきました! まず、男として育てられ、次に手術で女になりました! 二年前、中学二年生の夏休みでした! 今はもう完全に女の子で、シイナを男だったなんて思う人はいません! ですがあいつはずっと自分は男なのか女なのかを、問いかけていました!」
オペラ歌手顔負けの朗々たる声。
ここでカンヂが息をつく。
「この体質を面白おかしくからかうやつもいました! 男子サッカー部のツボウチはその最もっとも悪質な輩です! こいつは中学三年生のときシイナにふられた腹いせに、ありもしないウワサを広げました! 侮蔑的な内容の! 最低なたぐいのウソをです!」
そしてカンヂが大きく息をすいこんだ。
「ツボウチー!!!!! 格好わるいぞー!!!!!」
「元カノの悪口って、うーわ最っ低え、どいつ? ツボウチって」
「あれしょ? あそこ。三組の背の高い」
まわりの人間がツボウチを見た。
みんな話題のツボウチから三メートルの距離をとる。
「ふられっ、ふられてねえよ! ねえし!」
必死で弁解するが、つめたい視線はやまない。
「格好わるいぞー!!!」
砲声もかくやの大声でくりかえすと、足元の生徒たちからパラパラ笑いがまきおこる。
「このツボウチは、俺がいつもシイナといっしょにいるのが気にくわなかったらしく、サッカー部の仲間をあつめ、人目のないところで俺をとりかこみました! 場所は校門からでて運動場にむかう途中の、ガレージわきだった! 二人はしらないやつ! もう一人は中村だった! 中村は小学校のとき同じクラスでした! 胸がふくらみはじめたシイナを、中村はみんなのまえで裸にしようとした! そのころからシイナはかなり可愛かったので、裸を見たいと思うのも無理はないでしょう! だがそのような衝動をそんなやり方で実行しようというお前を、俺は心から軽蔑する!」
カンヂが大きく息をすう。
「中村ー!!!!! 下劣だぞー!!!!!」
今度は中村に視線が集中する。
ツボウチからはなれてかくれるように太った身をちぢめていたが、非難の眼にうろたえ、
「俺、そんなことしてねえって!」
否認の言葉は、むなしく消えてゆく。
「下劣だぞー!!!」
もう一度言うと、さっきよりも大きな笑いがあがった。
「そのとき俺はツボウチから暴行をうけました! 軽いものだったが、許せるものでもない! だが俺のうったえを受けた体育教師は、信じられないことを言いました! あいつらはサッカー部で、ツボウチは優秀な選手だから罪を追求してはかわいそうだと! 言ったのはサッカー部顧問、仲迫! 俺はあの日いらい、あんたを教師とはみとめていない! さらに俺の絵に、俺やシイナへの誹謗ともとれる落書きがあった! 外部にしらせなかったのに、ツボウチはなぜかそのことをよくしっていて、俺がききもしないのに、自分にはアリバイがあると言った! それを証明するのは、今名前をあげた体育教師、仲迫だと!」
カンヂが息をすう。
「仲迫ー!!!!! あんたは最低だー!!!!!」
体育教師仲迫はあぶら汗まみれで、同僚たちからの懐疑の目を避けるように背をむけた。
「仲迫先生。彼の言ったことは事実ですか」
教頭がうしろに立ち、怒気のこもった声で詰問する。
仲迫はぐったりとうなだれ、
「……はい」
少しはなれた所で、イサナもカンヂを見あげている。
その顔には快哉がうかんでいた。
「カンヂ君、やったあ」
「最低だー!!!」
笑いがドッとわく。
「だがそういう仕打ちをうけたにもかかわらず、シイナ、お前もわるいと言わざるをえない! お前はそういうのを見さげはてた行為としっていながら、あいつらと同じことをした! 俺の家族を中傷した! 俺がもっとも大切に思う家族を! 俺の姉の実吉サイコを! サイコはたしかに強烈で辛辣なやつだが、自分を律せないような人間ではない! 断・じて・ない! サイコは俺たちの誇りで、憧れだ! そいつをけごすやつはゆるさない!」
カンヂの魂のさけびを、不敵に笑って聞く者がいる。
実吉家の長女、サイコだ。




