【四五】屋上
カンヂは一人熟考する。
自分はシイナをどう思っていたのだろう。
感情ではなく、立場、位置関係の問題だとサイコは言った。
シイナはカンヂにとってどのような位置にいたのか。
なにをあたえ、なにを受けとっていたのか。
そして、今さら一人の女の子として見れるのか。
カンヂはそれらをじっくり吟味した。
次の日、カンヂは掲示板の前にたたずみ何事かを考えていた。
にらんでいたのはテレビに出演しよう/未青年の主張、と書かれた安っぽいポスターだった。
十二月最初の火曜日。
学校に放送局の撮影隊がやってきた。彼らは大きな車で乗りつけ、次々機材を運び出して校内のあちこちに設置した。
レポーター役のタレントが到着すると、ひときわ大きな歓声があがった。
その盛りあがりは、屋上にいるカンヂにもとどく。
その日全校生徒にむかって主張する人間の一人として、ついさっき志願したのだ。
そして、中庭にあつまった全校生徒の中には、シイナもいた。
カンヂが主張する人間の一人になったとアナウンスでききつけ、ハラハラと屋上を見あげている。
さらにすこし離れた校門に、サイコもきていた。
自転車に乗って長いスカートをひるがえし、幼児を三人もつれている。
チヒロとケンゴとヒデヲを、保育園にむかえにいった帰りだった。
ぐうぜん前をとおったら面白いことになっていたので、見物にくわわったのだ。
「そんじゃ、だれから主張してもらおうか」
男性レポーター二人のうち、軽薄そうな方が生徒たちをざっと見る。
こういう素人を起用したイベントは最初の一人が重要だ。
そいつの成否があとの流れを決める。
成功すればいい素材が撮影でき、失敗すれば放送事故なみのグダグダとなる。
そうなるとロケ素材がムダになる。
だから最初の一人はなるべくふてぶてしいやつがいい。
「そこのまゆ毛の君、君から行ってみよう。トップバッター、いける?」
幸薄そうな方がカンヂを指名した。
どちらも年恰好はカンヂたちとそうかわりないが、態度がどっか尊大なのは、大人といっしょにこんな仕事を数えきれないほどこなしてきたから。
「わかりました。俺からやらせてもらいます」
カンヂがずいと前にでる。
それなりの修羅場くぐってきた実吉家の長男である、本番度胸ならそこらのタレントには負けない。
「お、いいねえ気合いあんじゃん。じゃあ、あそこに立って合図したらはじめて」
カメラマンたちがカンヂにレンズをむけ焦点をしぼる。
録画開始の合図とともに、ADがキッカケをつくった。
カンヂが全校生徒の注視する中、屋上にたたずんでいる。
ひくい家々のずっとむこうに田んぼが見える。
そのどこかに、カンヂたちの大きな平屋もあるはずだ。
その家は、田畑の中にぷっかりうかんだ箱舟なのだ。
空がとても青く高く広い。
「ねえ君、もう声だしていいよ」
「回ってるよー。カメラ。回ってるよー」
うしろで安っぽい男性タレントたちが焦れてうながす。
カンヂはまったく意に介さないで自分のタイミングがおりてくるのをまつ。
そして大きく息をすい、
気持ちを声にのせる。
「皆さん!!! 今日は聞いていただきたい事があります!!!」
ためらいない発声。
堂々のバリトン。
後ろにいたタレントたちがカンヂの大声に耳をふさぐ。
「俺のクラスにいる、浅木シイナのことです! シイナは性ホルモン異常で、男とも女ともはっきりしない体に生まれてきました!」




