【四三】俺バカじゃん
カンヂはシイナをむき、じっと見つめたままなにも言わない。
「俺が、俺、悪かった……」
シイナは両手がまっ白になるほどにぎりしめている。
声はもう泣きそうだ。
だがカンヂはなにも言わない。
「あんなこと、本気じゃなかったんだ。サイコさんは怖いけど、でも嫌いじゃないし、バカにするつもりもなくて、ただみんなに笑ってもらおうと思って、だから」
ぐっとつまり、
「だから、ごめん」
カンヂはなにもしゃべらない。
だまってシイナの前をすどおりする。
「待ってよ、待ってくれよ、なあカンヂ!」
シイナがおいすがる。
「俺もう、どうしていいかわかんないよ! あやまったからゆるしてなんて言わないから、どうしたらゆるしてくれるのか教えてよ! なんだってするよ! だからカンヂ!」
「……なにもして欲しくない」
カンヂはシイナを引きずって歩く。
「俺、おまえがしたほうがいいって言ったこと、なんでもしてきたじゃないか! おまえがそうしたほうがいいって言うからツボウチとも我慢してつきあったし、先輩とだって、手をつないだ、頑張ってやったじゃないか! なのになんで俺の方むいてくれないんだよ!」
「それはお前のために、よかれと思って」
「いーことなんてひとっつもねえよ! ツボウチはあのとおりだし、先輩ふったってみんなしってるから水泳部にはいられなくなったし、なんだよ俺バカみてーじゃん! どんだけがんばっても、おまえが見てたの俺じゃなくてサイコさんとかイサナ先輩じゃん! 一度でも俺のほう見てくれたんかよ! もう俺、どー見てもオンナじゃねえか! なのに、おまえいつまでたっても俺オトコあつかいするし、じゃあなにしたらおまえは俺を見るんだよ! 姉妹みたいとかじゃなくて、一人の人間として! オンナとして! 俺を見るんだよ!」
カンヂが足をとめた。
「お前、なにを言ってるんだ……」
「そこまで言わなきゃだめなのかよ! 死ね! おまえいっぺん死ね!」
シイナがわめく。
「俺は、おまえが、好きなんだよ!」
カンヂがふりかえる。
シイナは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしてカンヂの腕をにぎりしめている。
「……いつから?」
「そんなの、しらねー。でも、中学でナメから告られたとき、最初におまえの顔が浮かんだ。ナメも好きだったけど、あの時もうカンヂも好きだった。おまえとナメがデートしたって聞いたとき、俺、好きな人とられるって思って、けどそれがどっちか自分でもわかんなくなってたから、どっちでもいいやって。ナメと俺が付き合ったら、おまえ一人うくじゃん、そしたら俺、どっちもひとりじめじゃん」
シイナは腰くだけになり嗚咽をもらす。
「なのにおまえ、美術部に入ってイサナ先輩と仲よくするし、イサナ先輩にカレシいたのしったら今度はサイコさん好きだったとか言いだすし、むかつくよ! 俺が一番ちかくにいるのに、俺、ぜんぜん存在価値ねーじゃん! 先輩と手ーつないでんの見たら|嫉妬してくれるかって思ったけど、なんか祝福っぽいことゆーし、俺なにしてもムダかよ! 空回ってんの! ホント笑うよな! カンちがいしててキメーし、バーカ死ねってかんじ!」
「だからといって、サイコにあんなことを言ったのを、許せるわけがないだろう」
シイナが手をはなし、床にへたりこんだ。
「だからどうしたらいいか教えてくれよ。俺、今日までがんばったじゃんか、もうやだよ。俺のことちゃんと見てくれないんなら、なんでほっといてくれねーんだよ。好きにさせといて、そのあとなんもなしかよ。じゃあハナっから親切とかすんなよ、おまえといると俺、苦しーよ。胸がちぎれそーだよ。だったら男のままでいたら、いっしょにいれたんかよ、なあカンヂ。もうおまえいらねーよ、俺の前から消えてくれよ」
カンヂはまた歩きだした。
「やだ、いかないでよ、ごめんなさい、俺、いやだ、きらいにならないでよ! 俺なんだってするから! ねえカンヂ!」
カンヂはシイナの声をふりきって歩きさった。




