【四二】カンヂの家族への想い
「ただいま」
「うおっかえりー。カンヂにーちゃん洗濯物とりこんどいてー」
「ああ、ほかにやることはあるか?」
「うんーと、玄関のソージも、それと六時にお父さんが電話くれって」
「わかった。おいチビたち! 洗濯物をかたすぞ! 男の子は表の掃除だ! さあさっさとかかれ!」
カンヂの号令で、兄弟姉妹はぱっと自分のもち場についた。
「カンにーちゃんおりがみ」
「すごいな、綺麗におれてるぞチヒロ。これが終わったらみんなにも見せよう。な?」
「ん!」
チヒロが得意げに手をあげ、大きく笑った。
カンヂは自分の家族が大好きだった。
彼らを傷つけるものがあれば、全力で戦うと固かたく心にちかった。
休み時間、女子生徒が人目につかないようカンヂに話しかけてきた。
「ねえお願い、シイナ君、ゆるしてあげて」
「なにを?」
「こないだの、あの話。シイナ君は冗談でいってただけだし、みんな本気にしてたわけじゃないし」
「もしそうだとしても、それはシイナ自身が俺に言いにくるべきだろう」
「それができないから、かわりに私がいってるのよ」
「なぜ? あいつは俺や俺の家族をバカにした。悪いのはあいつで、君じゃないだろう。だからあいつが俺のところにくるべきじゃないか。でなければ筋がとおらない」
女子生徒が言葉をのみこむ。
「実吉君て、本当に人の気持ちがわからないんだね」
「そうかもしれない。だけど、そんな俺でも家族はなによりも大切に思ってる」
女生徒はもうなにもいわなかった。
放課後の部活動。
絵の修復はほぼおわり、やっと作業再開となった。
「カンヂくうん、ここってこんなかんじでいいー? あはは、カンヂ君にカンジーだってー」
イサナは一人でしゃべり一人で笑った。
「シイナ君とは、うまくいってる?」
「おせじにもうまくいってるとは言いがたいです」
「そ、っかあ、まーしゃーないねー、心と心の問題だもんねー」
したり顔でいう。
普段タンポポの綿毛みたいにフワフワしてるくせに、人と人との関係にはけっこうするどい考察をするのがイサナの面白いところだ。
「イサナ先輩しってましたか?」
「ん、なにをー?」
「俺はイサナ先輩に恋をしてたんですよ」
「はわっ」
イサナは丸イスからずんころげおちた。
「はわっ、カンヂく、はわっ」
そしてハフハフ意味不明にうなる。
「カカカカカ、カンヂ君が、わたっわたっ、だ、だめだあ、もうもうなんも手につかないー」
「色を塗ってください。分担しなおしたイサナ先輩のとこは今日中にもおわるんでしょう」
「ど、どうしてそんなに平気でいられるのー、ああ、してたって言ったから、もうしていないのー? まだしてるのー? なんでしなくなったのー?」
だいぶ錯乱している。
「ああ、冗談だよね、ねー、あはは、あーびっくりしたあー、うーわー、まだ手がふるえてるよおーあはははは」
「いいえ本気です。でも安心してください。もう恋してませんから」
がったーん。
イサナが丸イスごとぶったおれた。
「だ、だめ、今日はもーおうち帰る、だ、だめだよー、僕には妻と子がー」
そして、ガタガタになって帰っていった。
それでカンヂの気持ちはちょっとだけなごんだ。
下校時間まで作業をつづけ、荷物をカバンにまとめてかつぎ、美術室をでて鍵をしめた。
「カンヂ……」
そこにシイナが立っていた。




