【四一】その裏切りは許さない
「カンヂ、なあカンヂ」
トイレに行く途中だった。カンヂはクラスの男子によびとめられた。
隣の席の大久保だ。
シイナの相手をしないようになって、最近よく話すようになった。
「なんだ?」
「なあ、浅木がさ」
「ああ」
「お前んちの悪口をふれまわってる」
カンヂは耳を疑った。
「シイナが?」
まさかという思いがあった。
「ああ。悪口っていうか、笑い話にしてる。最近なんか、いろんなところで言ってる」
「いつ? どこで?」
「教室で、ちょうど今も」
カンヂは早足に教室へとってかえした。
クラスからはシイナの少しハスキーな声が聞こえてくる。
それと共に、女子の笑い声も。
「本当の本当だって。あいつのねーちゃん、あいつの子供生みたいって言ってた。今いる子が生まれたら。次カンヂの子を産むって。意味わかんねーよな」
何それー、気持ちわるいー。
歓声がわく。
「アイツもヘンだけど、あの姉ちゃんもヘンだよ。なんかどっかおかしいんだよ。ズレてるっつうか病気っつうか。一歩間違えたら、アッチ側イッちゃう人? みたいな」
また笑いがおこって、シイナはさらに調子づく。
「ほんっとさあ、チンチンとか平気で言うし、大学入って四月だけで五人と付き合ったとか言うし、ガチで頭おかしいじゃねえのっつの。だって姉弟でそんなの、ありえなくね? だろ? でしょ?」
カンヂが思いっきりドアを開けた。
馬鹿でかい音がして、教室が静まりかえる。
カンヂがシイナに歩み寄る。
シイナの顔はまっ青だ。
「シイナ。言いたい事があるなら俺に直接言え」
シイナは硬直し、唇をふるわせている。
「どうした。今まで楽しそうに話していたじゃないか。それをそのまま言ってみろ。俺がヘンで、サイコの頭はおかしいんだろう。違うのか? 血がつながっていないとはいえ、姉と弟の立場でそういうことを考えるのは、病気なんだろう?」
カンヂはシイナを、今まで見せたことがないような険しい顔でにらんでいる。
「サイコはお前にきついことをいくつも言ったが、カゲでおとしめるようなことは、一つもしなかった。そのサイコを、お前は面白おかしくいいかげんに語った。俺はお前をゆるさない。俺は、俺の家族を笑う人間を決してゆるさない」
そしてカンヂはトイレにいき、またもどってきて自習をはじめた。
シイナはうなだれ、だまってすわっていた。
「実吉君って、人の心がわからないんじゃない?」
女子が内輪で小さく、だが確実にカンヂに聞こえるように言った。
「人の心というのが、カゲで他人をバカにするようなものだったら」
カンヂは立ちあがってその女子をにらんだ。
「俺はそんなもの一生いらない!!!」




