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青空、シャウト!  作者: ハシバミの花
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【四〇】悪評ふんぷん、カンヂぷんぷん

 翌々日、ようやくシイナが登校した。

 クラスメイトたちが心配しただのなんだのと声をかけたが、カンヂとは会話しなかった。

「シイナ君、やっと学校これたんだってねーよかったねー」

 放課後、イサナと美術室で話す。

「そうですね。だけど、家はまだ大変みたいです」

「カンヂ君、力になってあげなきゃねー」

 一瞬言葉につまり、

「俺の手は、もういらないそうです。俺、シイナを見くだしてたらしいです。そういうの、気がつかなかったから」

 イサナがカンヂを見た。

「シイナ君に、そう言われた?」

 カンヂは答えない。

「めずらしいねー、カンヂ君がそんなふうに言うのー、弱音? はかないもんねー」

「そうですか? 結構あちこちではいてますよ」

「ダメー、ゼンゼン足りてなーい、カンヂ君呑みこむフトコロ大きいけどー、それだけじゃあダメー。ちゃんとね、思ってること言わなきゃ。伝えないと、わかってくれないよー? 今みたいにー、落ちこんだままになっちゃうんだよー? それでもいいのー?」

「分からないです」

「ウソだよ」

「本当です」

「そっかー、じゃあ仕方ないねー。カンヂ君かわいそう。シイナ君もかわいそう」

 窓の外では秋の薄雲が空にかかっていた。



 それから一週間ほどたって、シイナの母親に量刑が下され、執行猶予がついたと新聞で小さく報じられた。



 十一月に入り、学校の掲示板にテレビ出演募集の紙がはりだされた。

 なんでもそれは民放バラエティー番組の人気コーナーで、屋上から全校生徒に大声で主張や告白をするというものであった。

「お前いってみろよ」

「やだよ。てかこれ、ヤラセ以外でやるやついんの? だって全国流されんじゃん? ぜってチョー恥ずいって」

 とおりりすぎる生徒たちからは、そんな会話がされていた。

 定員枠はなし、ギリギリの参加もOKという大雑把なものであった。

 盛りあがる周囲とは裏腹にカンヂの日常は平常どおりだった。

 そもそも実吉家ではNHKニュース以外の番組は見られておらず、幼い子供たちはそれすら見ていなかった。

 そういう環境なのでカンヂは話題になっている番組を知らなかったし、知る気もなかった。



 それよりもカンヂは憤慨(ふんがい)していた。

 だれかが美術室にしのびこんで例の展示作品にいたずら書きをしたのだ。

 バカとかオカマとかキモイとか、そういう知能の低そうな落書き。

 被害をうったえでてはみたが、学校側は犯人さがしに消極的だった。

 再発防止のためにやったことといえば、昼休みの放送で「美術室にしのびこんでいたずら書きをしたものがいる。もうしないように」というまことにのんきな通告だけだった。

「到底こちらのことを考えてくれているとは思えません」

「面倒に思う気持ちもわかるけどねー」

 イサナが自分の担当場所を修復しながら言う。

 犯人の目星がついているカンヂはそんなふうに理解をしめす気になれない。

 落書きの内容、やり方、そして早朝という時間を狙って行われたこの悪ふざけ。

「サッカー部のツボウチたちにまちがいないと思うんですが。ちょうどその日に朝錬があったそうなので」

「シイナ君の悪口ゆってたって子たち? そうかなー、どうかなー、実際にそうだとしても、つるしあげるのはやっぱしどうかなー」

「それがわかっていても、腹の虫はおさまりません」

「そっだよねー、これはひどすぎるよねー」

 その点についてはイサナも同意するようだ。

 さいわいというべきか、いたずらに使われた道具は木炭だったから、消しゴムをかけて上から重ね塗りすればほぼ修復できた。

「カンヂ君。まだこの絵を完成させるつもり?」

「勿論です。最後までやらないと、俺の気がすみません」

「両端は?」

「そこはシイナの……」

 言いかけて言葉が消える。

 シイナとはあれ以来完全に没交渉。

 それでも気をとりなおし、

「そこはシイナが描くと言った場所です。あいつが描かないのなら永遠にそのままです」

「強情ねー、頑固だなーカンヂ君。でもそろそろいいんじゃない? シイナ君を解放してあげたら?」

 イサナの言葉は心の一番痛いところをついていて、カンヂはなにも言いかえせなかった。



 日づけがいくつかあらたまって、カンヂがクラスの男子と廊下を歩いていると、サッカー部のツボウチたちとすれちがった。

「よお、お前の絵に落書きされたんだってな」

 いつか見せたような嘲った顔で話しかけてきた。

 すかさず取りまきから野卑た笑いがおこる。

「あんなに長ぼそいから習字の紙とまちがわれたんじゃねえの?」

 また笑い。

「ほう。なぜ俺の絵に落書きされたと知っている?」

 笑いがすぼまって消えた。

「校長は放送で、美術室で落書きがあったとは言ったが、俺の絵に落書きされたとは一言も言っていない。それも、長くて細いものは、文化祭の展示で製作したあの一枚だけだ。普段は他の生徒がさわらないようにしまってある。それを、なぜお前が知っているんだ? ツボウチ」

「……知るかよ。言っとくけど、チクっても俺にはアリバイがあるからな。ムダだぞ。なんせ見てたの仲迫だし、お前がなに言ったって信用されねーよ」

 それから大柄な体をちちめ、そそくさと立ちさった。

 カンヂは確信した。

 犯人はツボウチだ。

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