【三七】展示
文化祭当日。
一日目が水曜日で、イサナの恋人が遊びにきた。
二人は校内をめぐるという。
カンヂは美術室に居のこった。
「別に、ずっとここにいなくてもいいんだよ? 見に来る人も少ないしー、つめっぱなしだとゆっくり見てもらえないしー」
「適当に席をはずしますよ」
「うん。じゃーねー」
その日二日目とつつがなくすぎ、三日目、最終日になった。
展示がおわるたびに手をいれたが、絵はまだまだ完成しなかった。
「よお」
シイナが入ってきた。
横には例の水泳部三年生の姿があって、二人は手をつないでいた。
男と手がつなげるようになったんだな。
カンヂは感心した。
「先輩、ちょっと表でまっててくれる?」
「ああ。ゆっくりな」
少し無理しているふうだったけど、シイナは満ちたりて見えた。
「なんだ。いっしょに見ればいいのに」
「いーじゃん。一人で見たいんだよ」
そういって、未完成な絵を端からゆっくりと見はじめた。
この三作目のメタモルフォーゼはエッシャーの作品の中でも最大級のものだ。
オランダのハーグ市にある郵便局のために作られたというこの作品は、高さ192mmそして横に広げた長さは6800mmにも及ぶ。
絵は左っかわ「METAMORPHOSE」の文字から始まりそれがタテヨコいくつも重なって白黒の市松模様のタイルを形作り、それから徐々に五角形の花のタイルへ、そしてまた白黒の市松、トカゲ、六角形から蜂の巣、そこから蜂が飛び出しまた徐々に形を変え熱帯魚のような魚が浮き上がる、それが今度は鳥へ、そして船へと変わり船は魚に、馬に、鳥に、正三角形の白黒に、その中には羽の生えた手紙があしらわれ、もう一度鳥へ戻り立方体、白亜の町並みからチェス盤、そして白黒の市松模様から最後再び「METAMORPHOSE」の字に戻る。
この一連の変容が、タイトルのメタモルフォーゼというテーマによってまとめあげられている。
「これって、最初に見たときには意味わかんねー絵だったけど、こうやってずーっと見てくとなんか、変な気持ちになるな」
「どんな?」
「段々さあ、ありえねー物に形変わってくじゃん? 最初とは全然カンケーねー物に。それが、なんかさー」
シイナは絵の最後まで見て立ち止まった。
「なんか、俺みてーだなって思う。むかし男だったと思ってたのに、実はどっちでもねーって言われて、今、女だって言われて。なんかそういうの。だからこの絵、俺だって。俺の人生みてーだって。だから見てると目が離せねーし、夜とかそのことずっと考えるし、後から苦しくなったりした」
「そうか」
それでしばらくよりつかなかったのかと、カンヂは納得した。
「そうか。無理に描けとせまってすまんかったな。また気がむいたら描きにこい」
「けっきょく俺がやるんかよ。おまえもしつけーよ」
「俺はお前にまかせたんだ。そこには絶対に手をくわえん」
シイナはなにも答えず、ただ切なそうに笑った。
「俺、もういくわ」
「ああ。幸せになれよ」
「うん……先輩、もういいよ」
戸が開いて、三年生が入ってきた。
それから二人は手をつないで部屋を出、どこかに行った。
その日で文化祭はおわったが、後夜祭にシイナの姿はなかった。
かざりつけや衝立がつぎつぎ火にくべられた。
カンヂは絵を燃やさなかった。
次の日からシイナは学校にこなくなった。




