【三五】制作作業
のこりが四日間となって、文化祭用の展示制作は順調におくれていた。
イサナは手がおそく、シイナはまったく手伝わない。
カンヂにしたって自分の仕事で手いっぱい。
そのうえ文化祭が終わればそのまま中間テスト一週間前にはいるのだ。
痛かったのは、夏休みと文化祭の間に開催された球技大会だろう。
おかげでずいぶん時間を取られ、作業はほとんど進展しなかった。
今現在おわっているのは作業全体の半分とすこし。
完成はほど遠かった。
「うーん、シイナ君来ないー」
「だまって手を動かしてください。気がちります」
「カンヂ君がー、カンヂ君がいぢわるだー」
いつもニコニコ笑っているイサナが今日はピーピーないている。
「ねえ、ほんとーにどうかしたの? いきなりこなくなったなんて、おかしくなーい?」
「教室で声をかけてるんですが、そのうち行くっ と返事するんですが、いっつもこないんです。なにかまずいことがあったのかとききだしてみましたが、なにもないっていうし」
「おっかしーねー、そんな子じゃないんだけどねー、あーでも、中学のときもそんなかんじかー。今は水泳部なんだもんねー、むこーでいそがしーのかもー。あれ?」
イサナが窓から身を乗りだす。
「あれ、シイナ君じゃない?」
「イサナ先輩、あぶないです。ただでさえ運動神経ないんだから」
カンヂもいっしょになってそちらを見た。
何人かの生徒が歩いている。
年々弱視がすすみ、カンヂはメガネを愛用するようになっていた。
「見えません」
「そっかあ、見ないほうがいいかも」
「なぜです?」
「なぜって、男の子と歩いてるから」
言われてもう一度見てみたが、やっぱりよくわからない。
「あれ、三年生だね。ジャージ着てるから、水泳部かな?」
「あいつめ、それならそうと言えばいいのに」
カンヂはふてくされて作業にもどった。
「カンヂくーん、一度きちんとお話したほうがいいよー?」
「なにをです?」
「シイナ君と、カンヂ君のこと」
「なぜです?」
「シイナ君のために。シイナ君、無理してるかもしんないから」
イサナはいつになく神妙だった。
助言にしたがい、夜、カンヂはシイナに電話をかけた。
「はいもしもし」
「夜分おそくもうしわけありません。浅木様のお宅でしょうか」
「……なんだおまえか」
あからさまに声がしずむ。
カンヂはムッとした。
「なんだとはなんだ。お前がこないから、先輩も心配しているぞ。作業だってすすまないし」
「俺関係ねーじゃん、水泳部だし。それにお前もイサナ先輩と二人っきりのほうがウハウハだろ」
「お前がやるって言いだしたんだぞ。俺はお前にまかせたところは一切手をつけん。先輩にもふれさせん。あそこは、お前がやらなきゃダメだからな」
メンドクセーなあ、受話器の向こうで文句をたれる声。
「お前、水泳部の先輩とつきあってるのか?」
シイナが息をのんだ。
「……それがなに」
「どうして言わなかった」
「なにからなにまでお前に言わなきゃならねーの? 俺、おまえのなんなの」
今度はカンヂが返答につまる。
たしかに、カンヂは干渉しすぎなのかもしれない。
「そうだな。それはまあいい。とにかく、いそがしくても美術部に顔をだせ。少しでも絵に手をくわえろ」
「……用事、そんだけかよ」
ああ、お休み。
そう言ってカンヂは通話を切った。
翌日もシイナは美術室にこなかった。




