【三三】シイナへのからかいとカンヂの激怒
秋の風が吹く。
体育の時間だった。
カンヂたちの高校は運動場が別の敷地になっていて、いちいち正門から出て集合しなければならない。
その移動中、カンヂは取り囲まれて金網に押しつけられた。
「おいお前、いつも浅木と一緒にいる奴だろ」
見覚えがあった。
中学のサッカー部のキャプテンで、ツボウチとかいった。
「キモいんだよ。あんなオカマとつきあって」
「アイツのあれ、どうなってんの? 教えろよ」
「両方あるらしいぜ?」
「コイツばーか」
相手は四人。
全員がサッカー部員だった。
二人は名前も知らないやつだったが、別の一人が中村だった。
小学六年生で、シイナにちょっかい出してたあの中村だ。
「ほんとだって俺見たもん。なんかキタネーの、あいつのあれ」
ツボウチが言うと、ほかの者が笑った。
「それを、みんなに言いふらして回ったのか?」
カンヂはうっすら気づきはじめていた。
シイナに対する流言飛語の源はこいつ、ツボウチなのだと。
ツボウチは顔にあざけりを浮かべ、
「だったらどうするよ」
カンヂは思いっきり息を吸った。
中村がぎくりと身を固くする。
「お前が言いふらしたんだな!!!!!」
サッカー部連中がカンヂの語勢におどろいて身をすくめる。
「お前がシイナに対するありもしないウワサを広めたんだな!」
「お、おい、うるっせ」
「お前は見さげた人間だ!!!」
「おい、だまらせろ!」
「お前らは見さげはてたやつらだ!!!」
「こいつ!」
ツボウチがカンヂを殴る。
カンヂはツボウチをにらみかえし、
「口で言いまかされたら次は暴力か!!! お前は最低だ!!! 全く、クズのような人間とはお前のことだ!!!」
「おい、どうしたなにしてる!」
さわぎを聞きつけた体育教師が飛んできた。
「やっべ仲迫だ!」
サッカー部員たちは走って逃げる。
「お前、チクったら承知しねえぞ!」
「なにをだ!!! 俺を殴ったことをか!!!」
ツボウチはもうなにも言いかえさず、ただ走っていった。
「どうした?」
「サッカー部の連中にとりかこまれて殴られました」
カンヂは平然と言ってのけた。
その時間四人はずっと見学させられ教師から叱責をうけた。
「実吉。あいつらにはきつく言っておいた。今後なにかあったら俺に言いにこい」
授業終了後、体育教師の仲迫が来ていった。
「それだけですか?」
「なにがだ?」
「アイツらは浅木シイナに対するひどいウソを広めて回ってました」
「でもなあ、証拠もないし」
「俺に言ったそれだけでも、十分な証拠になります。なんなら、大勢の前で証言してもかまいません」
仲迫は苦い顔だ。
「なあ、あいつらはサッカー部で、特に坪内は優秀な選手なんだよ」
「だから?」
「こんなところで挫折させちゃ、かわいそうだろう?」
仲迫は、サッカー部の顧問でもあった。
公立校ではあったが、県下でも古豪として知られているというサッカー部の。
「シイナはかわいそうじゃないんですか?」
強烈な不信をぶつけられた仲迫が息を呑む。
カンヂは燃えあがりそうな視線をまっすぐぶつける。
「サッカー部員だからかんべんしてやれ、優秀だから、処分を甘くしてやれと?」
その声は怒りに満ちていた。
「お前、そういうけどな」
「あなたは今自分でそう言ったんだ。もしもこのあと、ツボウチに十分な処分がくだされないというのなら、俺は今後あなたを教師とは思わない。一生涯、軽蔑しつづける」
カンヂは仲迫をおいてその場を去った。
なにを生意気な、と吐きすてた言葉も聞いた。
ツボウチに対する処分はなかった。




