【二七】実吉家へのお誘い
シイナの様子がおかしいのにはカンヂもすぐに気がついた。
長いつき合いだ、いまさらかくしごともない。
「先々月から母さん、帰ってこないんだ」
シイナは言った。
「長いこと家あけるのはめずらしくないんだけど、店にも顔だしてないみたい」
「それで家は大丈夫なのか? 生活できてるのか?
「貯金はあんだ、前もゆったけど。だけど、送られてくる書類とか、俺よくわかんねーし」
「それで、心あたりは?」
シイナはかぶりをふる。
カンヂがおぼえている母親の姿。
シイナに罵倒され、糸のきれた人形みたいな放心した様子。
あれが中二の夏だから、もう二年ちかくもたっている。
「なあ、お前と母親、最近はどんな感じだったんだ?」
「べつに、おまえきたあれから、ほとんど話とかしなくなってた。顔みても、アイサツとかもしてなかった」
そこまで家族関係が破滅的だったとはしらなかった。
ともあれほうっておくわけにはいかない。
「今日からお前、うちで晩飯食べてけ。お前を一人にしたくない」
「うん。ありがと」
シイナが素直に礼をいう。
部活が終わって待ちあわせし、二人はいっしょに帰った。
「制服。スカート姿もずいぶんなじんできたな」
「ああ。もう私服も半分スカートだもん」
「似合ってる。もうどう見ても女子だ」
「ばーか。女子とかゆーなキモい」
シイナがひらひら舞う。
なんとなく滑川セラと町を歩いたときを思いだしている。
あのときの滑川セラは生き生きしていると思った。
だけど、もっと的を射た言葉があったことに、カンヂはやっと気がついた。
「シイナお前、かわいいな」
シイナが息を思いっきり吸いこみ、そこで動きがとまった。
しばらく口をパクパクさせ、そのあいだに酸欠で顔はどんどん赤くなる。
「立ちどまってないで早くこい。もう夕食ができてるころだ。みんな腹すかせてるぞ。今日はお前の好物をそろえてもらったんだ。楽しみだな」
シイナはむっつりだまってカンヂのうしろを歩いた。
5メートルぐらいはなれて。




