【二六】高校への入学は、あいかわらずとはいかず
ついに高校生編はじまりです。
受験シーズンに入ってシイナはいくつかの私立と地元の公立をうけた。
カンヂは公立だけを受験した。
落ちたら就職の背水の陣。
二人ともに公立、それも進学科に合格し、春からはれて高校生となった。
カンヂは美術部に入り、シイナは水泳部に入った。
「中学じゃほとんど泳げなかったから、高校じゃたっぷり泳ぎたい」
シイナは言った。
「男女混合だし、練習チョーきびしい。俺一番おそい。でもすっげたのしい」
とも言った。
美術部にはイサナがいた。
あいかわらずエッシャーの模写をしていて、カンヂが入部すると聞いて大よろこびした。
話によると幽霊部員合わせても所属者は六人しかいないという。
うち五人が幽霊部員。
「実質イサナ先輩の一人部活なんですか? おそろしい話ですね」
「ちっがうよー、カンヂ君もいるもーん、オソロシクないですうーうはは」
とあいかわらずの笑いをみせた。
シイナも昼休みとかによく顔を見せた。
同好会落ちギリギリの過疎クラブによそものが闖入しても文句をいうやつなんていやしない。
シイナは中学時代ニガテにしていたイサナとも、よく話すようになっていた。
「二人は同じクラスになったの?」
「進学科ですから」
「クラス一つしかないし、三年間クラスがえなしです」
「うわーい、エリートだあー、ひがむーひがむー、ううーん」
イサナは高校生になって、雰囲気に華やぎをおびていた。
体にあった服。
少しの化粧。
本人を昔から知るものじゃなければわからないような一つまみの刺激物。
「俺、ちょっとあの人、好きかも」
シイナは言った。
「異性としてか? それとも同性としてか?」
シイナは首をかしげた。
「わかんない、でも、異性として、ってのかも、わかんない」
「そうか。もし本気なら、」
応援する、と言いたかったのに、カンヂからその言葉はでてこなかった。
なにかのど元に引っかかって、だせなかった。
「実吉なんて苗字はめずしいからもしかしてとは思ったが、やっぱり実吉サイコの弟だったか」
そう嘆息したのは現国の教師だ。
高校の進学科にはいっておどろいたのは、サイコの伝説が無数にのこっていたことだった。
三年間学年一位を守りとおしたとか、卒業までに五十人に告白されたとか、その中には女子もふくまれていたとか。
「すっごいねー実吉先輩でしょー? うちの学年でもしらない子いなーい、一度おうちにいったっていったらすっごいうらやましがられたー」
普通科で二学年ちがうイサナですらしっていると言うのだから、その存在感は推しはかれよう。
「やっぱお前のねーちゃんすげーな。カンペキ超人じゃん」
シイナですら認識を新たにした。
「俺にはああいう飛びぬけた部分はないです。サイコは尊敬してるけど、サイコになれるのはサイコだけです」
カンヂだけはいたって平静、しれっとしてた。
サイコの伝説はともかく、カンヂたちの高校生活はまずまず順調にすべりだしたかに見えた。
が、水面下ではいくつも波乱要因がうごめいていた。
その一つが早々と表面化したのは、五月に入ってすぐ。
シイナの母親が失踪した。
ストーリー後半戦のはじまり。
思春期をむかえ心と関係が複雑になってゆく二人を、よろしく見守ってあげてください。




